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2021/07/17

資本主義社会の「原理主義者」たち

――闇医師の野村は別として、コシモや、ナイフ職人のパブロ、保育士の宇野矢鈴のように犯罪と知らずに加担する人も出てきて、彼らの運命が交錯していく。宇野は麻薬中毒者でもありますが。

佐藤 ブラックだったりグレーだったりする人も悪人とは限らない。ただ、資本主義のなかで生き残ることだけを考えている。これをフランスの哲学者のピエール・ルジャンドルはマネージメント原理主義と呼んでいますね。

 話せば普通だし、誰かが怪我すれば助けてくれるような人でも、とにかく原理主義なんですよね。現代に生きていると、みんなレベルの差はあれマネージメント原理主義の部分がある。そのトップに麻薬王のような人間がいて、下のほうに宇野矢鈴のような人間がいる。

 ただ、彼女は、そこに巻き込まれる善人として出したわけではないです。今、巷でたくさんドラッグの問題があるじゃないですか。芸能人のコカインくらい別にいいじゃないかという人もいるけれど、その裏でメキシコでとんでもない麻薬戦争が起きている。そうして人が死んだ結果、パッケージに入ったドラッグが日本にも届いているんだってことは伝えないといけないと思いました。

 麻薬じゃなくても、自分が買っている商品が、いろんな問題を抱える経路をたどってきたものだったりしますよね。そういうことに対しての想像力を与えるのがフィクションのひとつの仕事でもある。コカインをやったからって人格までは否定しないけれど、どんな人間にお金が流れているのかとか、そういうことは知っておいたほうがいい。それを知っていると、その道に踏み出さずに済むというのもありますから。

 

――読むうちに、彼らはそんなにお金を儲けてその先に何があるんだろうと思ったんです。何かのためにお金を稼ぐのでなく、金儲けが自己目的化している、それが今の資本主義なんですね。

佐藤 おっしゃる通りだと思います。昔、サッチャーが新自由主義以外の選択肢はないという言い方をしていましたが、善悪に関係なく「このゲームに勝つしかない」「だからどんな手を使ってでもお金を儲けよう」、そう考える人が、現実にいる。

 厳密には後期資本主義って言うらしいですね。前期資本主義では労働者がいて工場長がいてその上に資本家のオーナーがいた。今は、SNSもそうですけれど、みんながマーケターとか、CMプランナーみたいな発想になっているじゃないですか。知り合いの社長が言ってましたけど、最近は若い人たちのビジネスの考え方がエグいらしいです。金さえ儲かればそれでいいという。迷惑系YouTuberとかもそうですよね。

 文学のような美学に属する分野でも、普通にマーケティングという言葉を使う人がいる。リサーチをしてどう売るか考えるのは間違いではないけれど、そういうことに何の恥じらいもない人が、老いも若きも、すごく多いですよね。数の力で勝つことが目的で、それ以外はもう敗北という発想を植え付けられている気がします。それはもう、マネージメント原理主義ですよ。

 

人間は自分の「分身」と闘い続ける

――そんななか3年半をかけて、ここまでがっつりした読み応えのある小説を書いてくださって、一読者として嬉しかったです。

佐藤 これに集中するために、他の仕事をお断りするじゃないですか。他の作家に「そういうの、怖くないんですか」って訊かれたんですよ。みな仕事を断ること、忘れられていくことに対する恐怖感がすごくあるし、人の目をすごく気にしている。僕はどっちかっていうと忘れられたいほうなんですよ。「佐藤究って奴がいたけどあいつ今どうなったのかな」みたいに言われたい。

 でも、小説でも音楽でも、資本主義のなかで勝ち上がるのが正しいっていう風潮がありますね。実際、ある程度生活はできたほうがいいんでしょうけれど、僕は自分の作家としての人生設計なんて本当にどうでもいいんです。

 どっちかっていうと、物書きってドロップアウトして何もやることがない人間がなってきたものだと思うんです。エドガー・アラン・ポーが原因不明の野垂れ死にをしたとか、ハーマン・メルヴィルがずっと食えなかったとか聞くと興奮しますね。

 僕は、さっきも言った丸山ゴンザレスさんとか、ルポライターで漫画家でもある村田らむさんといった、一見すると無謀なことをしている人たちに昔の作家のオーラを感じます。飄々としながらも、酷いものをたくさん見てきている。どん底を知っている人たちは自然と他人に優しくなるんだなと、彼らから学びましたけど、僕の中の作家って、そういうイメージです。

――佐藤さんの作品にはドロップアウトした人や、裏社会や闇の組織がよく出てきますね。

佐藤 元特殊部隊の方とかから、表に出せないことをいろいろ聞くんです。僕らがニュースで知っている事柄はほんの少しにすぎなくて、彼らには違う景色が見えていたりする。そういうところに興味があるんでしょうね。