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オードリー・ヘップバーンに魅せられて

 そうやって映画館に入り浸っているうち、『マイ・フェア・レディ』に主演したオードリー・ヘップバーンのファンになった。どこに魅かれたかと言えば、“見たこともない美しさ”、と表現するしかない。例えば、日本人は各地に残っている城郭が日本を代表する歴史的建造物だと知っているが、子供の頃から見慣れているせいか、同じ歴史的建造物なら中国の万里の長城やギリシャのパルテノン神殿に魅かれたりする。反対に、外国人が日本を訪れると、どこかの城を見たいと言ったり、京都や奈良に足を運びたいと言う。人間の好奇心を満たすキーワードは、「滅多に見られない」や「世界でここだけ」だろう。16歳の私にとって、オードリー・ヘップバーンはまさにそういう存在だった。秋田の街中を歩いていても、絶対に会うことはないはずの顔立ちや髪の色。それが強烈なインパクトで迫ってきた。オードリー・ヘップバーンのファンになったことで、『マイ・フェア・レディ』のサントラ盤を買い、月刊の映画雑誌『スクリーン』(現『SCREEN』)も購読するようになった。購読と言っても、目的は巻頭のカラーグラビアである。オードリー・ヘップバーンが載っているページは折れないように気を付けながら「きれいだなぁ」と眺め、ほかに魅力的な女優を見つけると、彼女たちが出演する作品を観るのを心待ちにした。歌手や女優のグラビアを切り取ってポスターのように貼る人もいるようだが、私はそれをしなかった。切り取ってポスターのように貼ろうとすると、裏に他の女優が載っていると見られなくなってしまう。私はどちらも見たかったので、そのまま大切に保管していた。

写真はイメージです ©iStock.com

 イングリッド・バーグマンは、スウェーデン出身というプロフィールを見ただけで神秘的な感じがした。今になって振り返れば、オードリー・ヘップバーンはきれいというよりかわいらしい顔立ちで、本当にきれいなのはバーグマンだったような気がする。そんな彼女をスターダムに押し上げた作品は『カサブランカ』だった。バーグマン演じるイルザ・ラントとハンフリー・ボガートが演じるリック・ブレインによるラブロマンスは、第二次世界大戦にアメリカが参戦した1942年の製作だったこともあり、反ドイツという国際的な問題も織り込みながら描かれた。戦渦で離れ離れになった二人は奇跡的に再会したものの、また別れる運命にあった。お互いの愛情を確かめ合うクライマックス。リックはイルザを見つめながら言う。

 Here's looking at you, kid.(君の瞳に乾杯)

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 その言葉を受け取るイルザの表情も本当に愛らしい。バーグマンでは、ゲーリー・クーパーと共演した『誰が為に鐘は鳴る』で演じたマリアも強く印象に残っている。