劇中のリアリティを追求しても、専門家やその道に明るい人にとっては「嘘っぽい」ものの域を超えないのではないか……。落合博満氏は、映画という創作物に真実らしさを持たせる難しさについて、こう語る。
そんな落合氏にとって、自身の“職業”である「野球」がテーマの映画を楽しむことは簡単ではないだろう。しかし、なかには印象に残っている作品もあるという。
ここでは落合氏が映画愛を語った『戦士の休息』(岩波書店)の一部を抜粋し、感心させられたという野球映画について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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印象に残る野球映画は、この2本
野球映画の話に戻ろう。このように、リアリティという点で今ひとつ野球映画に気持ちが向かない私が、あえて印象に残っている作品を挙げるとすれば、『がんばれ! ベアーズ』(1976年)と『プリティ・リーグ』(1992年)だろうか。『がんばれ! ベアーズ』は、私が映画に求める「楽しければいいじゃないか」という典型的な作品だ。現在ではリトル・リーグで少女がプレーするのも珍しくはないが、この作品が制作された1976年に少女をエースにしたのも面白かった。その少女を演じたテイタム・オニールは、実父のライアン・オニールと共演した『ペーパー・ムーン』(1973年)で、史上最年少の10歳でアカデミー助演女優賞に輝き、ベアーズに出演した頃は大人気。その可愛らしさや生意気さには、それから何度観ても引き込まれてしまう。また、プロ野球選手を成人の俳優が演じる場合とは違い、テイタム・オニール自身がプレーするシーンにも感心させられた。投球シーンをマウンドの後ろから撮っているのだが、13歳の少女にしてはなかなかのボールを投げているのだ(投球フォームは体が開いていて褒められたものではないが)。これは野球が題材となってはいるが、一種のコメディとして十分に楽しめるものだった。
一方の『プリティ・リーグ』は、43年から54年の12年間、アメリカに実在した女子プロ野球リーグに関する実話に基づいた作品だ。第二次世界大戦で多くの選手が戦地に送り込まれ、メジャー・リーグが人材不足になったこともあって発足した女子プロ野球の選手たちが、女性差別に直面したり、夫が戦死したり、という困難を乗り越えながらプレーする姿を描いている。この女子プロ野球が88年に野球殿堂入りした際、セレモニーに参加する元選手の女性を軸にストーリーが展開され、野球殿堂で再会するシーンで完結する。これは、野球を職業にした私にとって、「異国の野球界にはこういう歴史もあったのか」と素直に感動できるものだった。