「これはいいな」と思ったスポーツ映画
そうしてスポーツ分野でも実話ものを好む私が、「これはいいな」と思った作品がある。サンドラ・ブロックの主演で2010年に公開された『しあわせの隠れ場所』だ。これはメジャー・リーグで独創的な球団作りをした、オークランド・アスレチックスGM(ゼネラル・マネージャー)のビリー・ビーン(現職)を描いた『マネー・ボール』(2011年)の原作者マイケル・ルイスの著作の映画化である。幼い頃に父親と生き別れ、母親はドラッグ中毒という境遇に育った黒人少年が、ある裕福な白人の家族に迎え入れられ、アメリカン・フットボールの才能を見出されながら有名大学へ進学するのに必要な学業成績も修めていくというストーリーだ。まともな教育を受けられず、着の身着のままで街をフラフラとしていた少年が、いくら裕福な家族に引き取られたとはいえ、2年余りでフットボールと学業の両面で有名大学へ進学できるだけの成績を修めるなど奇跡のような話だ。しかし、現在もボルチモア・レイブンズで活躍するマイケル・オアーという選手の実話なのである。原作は、オアーが大学1年生の時に出版されたそうだが、映画はその3年後、卒業してレイブンズヘドラフト1位で入団するタイミングで制作された。サンドラ・ブロックが彼を引き取った家庭の母親を演じ、フィル・コリンズ(イギリスのミュージシャン)の娘リリー・コリンズが、サンドラ・ブロックの娘役で出演している。ストーリー自体もよくできていると感じたが、何よりもエンディングでオアーがドラフト1位指名を受け、その家族とともに記念撮影をする実際の映像が挿入されているのがよかった。
実話とわかっていても、どうしてもシーンの描き方によって「ここは美談過ぎるんじゃないか」と感じてしまう時があるだけに、最後に実際の映像が出てくると、「やっぱり実話なんだよな」と納得することができる。スポーツ分野以外でも、このように実際の映像を挿し込む手法を採り入れた作品はいくつか観ているが、リアリティを高めるという点では正解だと思う。ただし、最近では作品がヒットすると続編をという風潮が強いゆえ、一作で完結してしまう実話ものは、題材を見つける労力を考慮しても積極的に制作される傾向にはないかもしれない。
制作者が持つべき無骨な勇気
プロ野球選手だった私が、いや、私に言わせればプロ野球選手だったからこそ野球映画を進んで鑑賞しようとは思わないように、誰もが楽しめる作品を世に送り出すのは容易なことではない。だが、そこで安易に人気小説やコミックを映画化しようとするのではなく、制作者にはこだわりを持った作品を生み出していってもらいたい。そうしたプロの仕事に必要なのは、「これは売れるのだろうか」と思案するよりも、「これを観てもらうんだ」という無骨な勇気。映画界の先人たちが、何もないフィールドに道を作っていったような勇気だろう。そして、勇気を持って作品を制作したら、「観ればわかるさ」という勇気も持ち、わからない魅力。を信じて過剰なPRは控えていただきたい。冒頭の主張に戻ったところで、この章は幕を下ろすことにしよう。
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