高校時代、野球部の練習にも行かず、学校をサボっては映画館に通っていたという落合博満氏。後にプロ野球で数々の伝説を打ち立てることになる同氏が野球ではなく、映画に夢中になっていたのはいったいなぜなのだろうか。

 ここでは落合氏が自身の映画観を語りつくした『戦士の休息』(岩波書店)の一部を抜粋。かつて夢中になった名女優への思いを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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学校をサボり、時間を潰すために映画館へ

 高校時代、入学直後から野球部でレギュラーになってしまった私は、3年生の先輩から何かと目の敵にされた。難癖をつけられては殴られているうちに練習に出るのが嫌になり、次第に登校すれば練習に出なければならないからと、高校へ行くこと自体をサボるようになる。ただ、将来は建築関係の仕事に就きたいと、自ら希望した高校の授業をサボっているのが親にでも知られたら厄介なことになる。当時、秋田市内でOLをしていた姉が借りていたアパートに同居していたから、朝はそのアパートから登校するふりをして、夕方になるまで時間を潰す場所が映画館だったのである。入場料を一度払えば、その日はいつまでも居られるのがメリットだ。新作が上映されることはほとんどなく、いわゆる名画座のように、かつてヒットした人気作品を2、3本立てで上映していた。それを一日中観て過ごし、さらに何日も続けて通っていたことで、当時の上映作品を何度も観ることになったというわけだ。入場料は300円くらいだったと思うが、それを毎日のように工面するのはひと苦労だった。姉が買い物の釣銭をコツコツと入れていた貯金箱から拝借したり、時には担任の先生に毎月渡さなければならない高校の授業料1000円を充ててしまったり……。バレるのは目に見えているのだが、とにかく野球部の練習をサボるために映画館へ通い、すぐには家に帰れないから同じ作品を何度も観た。