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卓球の「大逆転」の仕組み

 また、各プレーのみではなく、0-0からゲームを通しての流れを観ていると面白い。

 たとえば、3-3というスコアだったとして、4-3、5-3、6-3と引き離してリードを取ったとする。そこで勢いそのままに一気に勝ち切ることというのは実はそれほど多くない。ここから逆転されることも往々にして起こりうる。

 リオオリンピックの女子団体ドイツ戦、伊藤美誠選手とゾルヤ選手の試合。9-2で伊藤選手がリードしているときに、伊藤選手が簡単なスマッシュミスをした。これは難しいボールだったからではなく、伊藤選手が大量リードしている状況から安心して、少し集中力を欠いたようなミスであった。

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伊藤美誠選手 ©文藝春秋

 そのとき解説に入っていた私は、「今のミスは良くないですね。これは逆転されるような雰囲気ですよ」と言うと、本当に9-2から逆転負けをしてしまった。

 伊藤選手としてはもちろん「気を抜く」などというつもりはないのだが、ほんの小さな緩みがプレーに表れてしまうことはどうしてもある。そしてそこを突かれてしまう。但し、この経験が今の強い伊藤選手を作り上げた原動力の一つになったのは間違いない。

 卓球は技術と心理が重なって動くスポーツだ。リードしている選手は、「いけるだろう」と思い、無理に攻めず安定志向になる。負けている選手は、「もう開き直って思い切りいこう」となる。この心理の転換が、ゲームの転換点となるのだ。

 具体的に書くと、安定志向で入れにいったボールを、開き直った方がガンガン攻め抜いていく。一流のプロの試合であれば、安定志向で入れに来ているボールをミスすることはあまりない。攻める方はどんどんノってくる。リードしている側は、どんどん不安になってくる。そうなると、もう歯止めが利かない。

 一度緊張の糸が切れると、そう簡単には立て直せないのだ。大量のリードを奪って、少し気が緩む。そこで簡単なミスをする。最初は、「まあリードがあるから大丈夫」という思いだが、そこから「あれ、ちょっとやばいぞ」となり、「ああ、やばい。追いつかれる!」となる。こうなると焦りしか生まれない。