このあと文子は息子の薫について語っている。16歳になった薫は父親に似たスリムな体型で、身長は180センチ。親子でシャツやセーターを貸し借りしながら着ているという。
口には出しませんが、内心では息子に笑われないよう、体形や着こなしにはずいぶん気を遣っているんじゃないかしら(同)
実はこの話がしたくて取材を受けたのではなかったか。息子が成長したことを、マスコミに印象付けるための根回しである。
長男のデビュー
週刊誌の取材から4カ月後の86年10月18日、東京・砧の東宝撮影所で、文太は薫とのツーショット撮影に臨んだ。『映画女優』を撮影中の文太と、大森一樹監督の『恋する女たち』で芸能界デビューする薫が、偶然にも撮影所で顔を合わせたという設定である。
私生活は公開しない主義の文太もこの日ばかりは特別で「オレの息子をよろしく」とテレながらマスコミにお披露目。さすが親子で、目も口もともそっくり(「週刊明星」86年11月6日号)
薫は以前から「役者になりたい」と文太に相談し、文太はそれをすんなり受け入れた。「男は自分でこうと決めた道を行くしかない」からだと話すものの、むしろ、自分と同じ役者を選んでくれたことを喜んでいる様子が言葉の端々に滲む。
特にアドバイスすることもないさ。独立心を養うために親とは別居させ、勝手にやれと言ってるんだ(同)
そう言いつつも、すぐにアドバイスの言葉を口にする。
ま、あせることもないさ。オレも自分で役者の道に入って自分で仕事を探してきたんだが、頼れるのは自分だけだ。それを忘れずに精一杯頑張るっきゃないぞ(同)
一方の薫は、親の七光りに反発する発言をしている。
“文太の長男”と言われるのはしようがないけど、僕は僕で意識しません。今度の映画では大森一樹監督にやさしくしてもらって、まだ現場のきびしさがよくわからないんですが、これから鍛えてもらいたいと思ってます。もちろんオヤジは尊敬してるけど(同)
息子のデビューに先立ち、文太は大森監督の日本テレビ・金曜ロードショー『法医学教室の午後』(85年6月12日放映)で神奈川医大法医学教授を演じ、続いて『法医学教室の長い一日』(86年11月7日放映)に出演している。大森監督とは気心が知れた関係だった。