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 西野の周辺で起きた決定的な動きがあった。2019年9月に西野の十年来の友人である柳澤康弘が、正式に西野のオンラインサロンの運営などを手がける「チムニータウン」の社長に就任したことである。ITベンチャーの経営者でもあった柳澤は、地に足のついた経営手法を知っている。彼はこんなことを言っていた。

「会社でも『あなたじゃないとできない』とか『ありがとう』って言われる経験は少ないと思うんです。大きな組織になればなるほど、自分が辞めたとしても、何事もなかったかのように次の日がやってくる。かけがえのない自分、ではなく交換可能な存在であると感じますよね。でも西野くんのプロジェクトでは自分の存在が肯定されるわけです。今の社会で大切なことだと思いますよ」

会員制サロンを運営

批判なき「優しい」場から生まれる物語

 ここにあるのは循環の構図だ。西野の物語を応援するということは、応援する側が物語の世界の一部になることを意味する。彼らは西野からの「ありがとう」というひと言に励まされる。応援することで、応援されるということだ。

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 ここに、オンラインサロンで批判を禁止した理由も見えてくる。今のインターネットの世界では、誰かを肯定するより、批判や否定する言葉が目につく。少なくない人々は、批判の中身ではなく、「批判」というスタイルそのものに辟易としている。それは、それぞれの「神」を「推す」行為が隆盛を極めていることとリンクしている。ネガティブな言葉よりも、励ましの言葉が飛び交う場、批判なき「優しい」場から生まれるポジティブな物語のほうに、人は惹かれていく。

 彼は時代の空気を期せずして汲み取ってしまった。「西野亮廣」を取り巻く現象の本質はここにある。

出典:「文藝春秋」2021年8月号

 石戸諭氏(ノンフィクションライター)による「令和の開拓者たち:西野亮廣」は「文藝春秋」8月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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西野亮廣(芸人・絵本作家)