「音楽を小説にする」カツセマサヒコ
カツセ 今回僕はYOASOBIの逆方向である「音楽を小説にする」ということを『夜行秘密』でやりました。どこまでindigo la Endのアルバムの世界観を維持しながら小説にしたらいいのか。すごくプレッシャーを感じていました。実は、作詞作曲の川谷絵音さんと打ち合わせしているときに、YOASOBIの話が出たんです。川谷さんが、「YOASOBIがやっていることは、全曲なんらかのオーダーがあるタイアップ曲を作っているようなもので、そのプレッシャーや要求に常に応えているのがすごい」という話をされていました。それって、常に原作へのリスペクトがないとできないことだと思うから、Ayaseさんはいつも原作とどういった距離感を取っているのかを聞いてみたかったんです。
Ayase YOASOBIというプロジェクトにおいて、原作者へリスペクトを示す唯一の方法は、原作者がその曲を聴いたときに最高だと思えるものを作ることだと思っています。どれだけ原作を「好き」とか「すごくよかった」と僕が褒めるよりも、「あなたの小説をこんな音楽にしました」って聴いてもらったときに「すごい!」と思ってもらえることが、「この小説を書いてよかった」「曲にしてもらってよかった」につながる。そこに対してもうひたすら真摯に向き合うしかないですね。正直、自分でゼロから作るよりもカロリー消費量は圧倒的に多いです。でも、その分達成感も大きくて楽しいです。小説を音楽にするのは、どれだけ小説と向き合う時間が長いかで曲のクオリティーが決まってくるので、とんでもない時間をかけて原作の一字一句に向き合っています。一作から曲が出来上がるまで、常にパソコンのデスクトップ上に小説を開いておいたり、紙としてあるならそれをずっと見ていたり、その文字、その文章をそばにおいて音楽を作っていくので、原作が生活の一部みたいになっています。
カツセ 僕の場合、「indigo la Endの音楽を小説にしませんか?」というオファーをいただいたとき、デビュー作『明け方の若者たち』(幻冬舎刊)の映画化が決まって、ちょうどその脚本の初稿が手元に届いた時期だったんですよ。その時点の脚本は原作にすごく忠実な物語だったんですが、「これは原作者としては嬉しいけど、2時間の映像作品として見たときに面白いんだろうか?」という感想を抱いたんです。でも、映画として何が正しいかは僕にはわからないので「お任せします」と返答しました。そこからいくつか変更があったんですけど、その経験が今作『夜行秘密』の創作過程に活きました。すでに完成しているアルバムの延長線として作ることよりも、小説としてオリジナリティーがあって、ちゃんと面白いものにすることを大前提に考えなきゃいけないなと思ったんです。そのときのヒントになったのが、Ayaseさんのツイートでした。実は……。