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川谷絵音率いるindigo la Endをベースにした小説『夜行秘密』 作者のカツセマサヒコとYOASOBI・Ayaseが感じたコロナ禍の“負の連鎖”とは

カツセマサヒコ×Ayase対談#2

note

ニュースタンダードの出発点に立っている自覚

――「時代の空気感」みたいなものはどう捉えていますか? 2021年の今、どういったテーマやムードが今の時代を生きる人に刺さると感じられていますか?

Ayase 言語化するのがすごく難しいんですけど……まず僕は、今の時代に対して「本当にとんでもない時代を生きてるぞ」という気持ちがあります。エンタメだけではなく、すべてのことにおいて、ここがものすごく大きな変換期になるぞ、と。コロナ禍に突入した頃から、時代が躍進する瞬間なんだろうなっていうのをめちゃくちゃ感じていました。「今のこのご時世だからこそ僕らにできること」を考えるよりも、ニュースタンダードの出発点に立っている自覚を持っていなければならないんです。

 

――この変換期に対してAyaseさんは「恐れ」を抱くのではなく、気概を奮い立たせてくれるものとして受け入れたということですか? 

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Ayase もちろんコロナを肯定することは絶対にないんですけど、これをきっかけに時代が躍進していくことは、マイナスの状況から生まれたプラスだと思っています。もちろん恐怖もあるけれども、生活そのものや音楽の受け入れられ方も変化してきているし、日本も世界もどんどん変わっていくだろうし、この厄災を乗り越え、どう進化していくのかは常に意識しています。ターニングポイントなのかなという感覚も持っています。 

「優しくされてえ!」と思ったら、優しくしたくなってきた

――コロナ禍前の2019年11月にリリースした「夜に駆ける」はダークでグロテスクなニュアンスを含んでいた一方で、今年の5月に発表した「もう少しだけ」や最新曲「三原色」はささやかな温もりみたいなものを感じますが、Ayaseさんの作りたいものはどう変化しているのでしょうか? 

Ayase 変化ということで言えば、より自分のメッセージを入れたくなってきたことと、自分のエゴでもあるんですが、「人に優しくしたい欲」みたいな感覚が芽生えてきました。 

カツセ いい名前の欲だ(笑)。どこからそのマインドが出てきているんですか? 

 

Ayase 「僕もつらいんだよね」みたいな感情がまずあって。飲みに行きたいけど行けないし、会いたい人にもなかなか会えなくて……しんどいし、超忙しいし、「優しくされてえ!」って(笑)。そう思ったら、優しくしたくなってきました。コロナ禍でそれぞれの生活の中で、気持ちがグッと沈んでいる人もいれば、前向きになれることがあった人もいて、いろんな人がいると思うんですけど、優しさは絶対的にみんなが欲しているはずです。そういうマインドを少しでも意識して楽曲を作っていると、小説の中から言葉を引用しても、自分の「優しさ」のフィルターを通して歌詞を紡いじゃいますよね。たとえば「めぐる。」という原作から「もう少しだけ」という曲を作ったんですが、ラストのサビ部分の〈めぐり続けるんだずっと どこまでも〉は原作の話だけど、そのあとの歌詞は完全に原作から切り離して自分の言葉を入れているんです。最後に「ちょっと僕からひとこと言わせて」みたいな感覚で〈今日もどこかであなたが 今を生きるあなたがただ 小さな幸せを見つけられますように〉という祈りのような歌詞を添えています。「こうすれば大丈夫だよ」みたいな優しさを、スッと撒きたくなっているんですかね。「群青」あたりから、そういうふうに自分のメッセージを入れたい気持ちが強くなってきました。 

カツセ なるほど。人のすべての怒りの根源には「優しくされたいだけなのに」という思いがある気がします。