確かに、身体の大きさでふるいにかけることについては、道義的な観点から異を唱える声はあるかもしれない。ただ、トレーニングや指導によって伸ばすのが最も困難な要素が身長である。その意味で、この方針は理にかなっているとも言える。とりわけ、バスケットボールのように激しいコンタクトがあり、3m5cmの高さに備え付けられたリングにボールを通す競技では尚更だ。
小さい選手が生きる道が完全に閉ざされるわけではない
もちろん、その基準に満たない子たちに門戸を閉ざすというわけではない。
ただ、身長が一定に達しない選手の場合には、それを補ってあまりあるような能力が求められる。今回の日本代表でいえば日本人Bリーグ選手として史上はじめて年俸1億円に達した富樫がそうだ。
彼の身長はわずか167cmにすぎない。試合出場はないが、日本人として2人目のNBAチームに登録された選手でもある。今回のスペイン戦でも富樫は守備の戦術上の理由からスタメンを外れたものの、40分中15分41秒の出場で、8得点だった。
その価値は2人のNBAプレーヤーと比較すればよくわかる。エースの八村は36分48秒の出場で20得点、キャプテンの渡邊は35分41秒の出場で19得点だった。富樫が彼らと同程度の35分近く出場していたら、17.8得点を記録した計算になる。
こうした状況を見ても、前述の『スラムダンク』で描かれた168cmのPG宮城リョータのように、小さい選手が生きる道が完全に閉ざされるわけではない。だが、基本的には「大きい選手を鍛えて伸ばす」というのが今後の日本のスタンダードになりそうだ。
むしろ、あのマンガが描かれた1990年代前半を考えるならば、189㎝と当時の高校生としては高身長である“バスケ素人”の主人公・桜木花道が周囲の期待を受け、鍛え上げられるというストーリーは2021年以降にやってくる時代を予見していたと言えるのかもしれない。
事実、今月初頭にはラトビアで19歳以下のW杯が行なわれた。そこに参加したU-19日本代表の平均身長は195.2cm。東京五輪に参加しているフル代表全体の平均身長と比べても遜色ないレベルだった。
45年ぶりに男子バスケットボール日本代表がオリンピックの舞台に立った初戦は、短期的には「日本が世界王者に善戦した試合」と記憶されるだろう。ただ、将来、この試合を振り返ってみたとき――日本のスポーツ界における強化方針が変わっていくことを提示した試合として認識されるのかもしれない。
7月29日、2戦目に対戦するスロベニアは、現在のNBAで最高の選手の1人に数えられるルカ・ドンチッチ率いるダークホース的な存在だ。ドンチッチは初戦でオリンピック史上歴代2位の48得点をたたき出すなど、最高の状態にある。新たな時代に足を踏み入れつつある日本は、そんな難敵相手にどんな戦いを見せるだろうか。