圧倒的な競争相手が現れた場合、それでも勝負を続けるか、あきらめて別の道を探すか。ビジネスやスポーツにはよくある話。人生にもそんな転機があるだろう。

 そんなとき、ちょっと勇気をくれるエピソードが鉄道の歴史にある。近畿日本鉄道の「名阪特急」だ。名古屋と大阪を結ぶ特急列車群を指す。2020年3月には真っ赤な車体の80000系電車「ひのとり」がデビューして、鉄道ファンに鮮烈な印象を与えた。

近鉄「ひのとり」(プレスリリースより)

 80000系電車「ひのとり」は、大阪難破~近鉄名古屋間を最短2時間5分で走破する。最高運転速度は時速130キロ。真っ赤な車体に陽光をきらめかせて走る姿は惚れ惚れするほどカッコいい。

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 私も運行開始直後に乗ってみた。いくつもの駅で各駅停車や急行を待避させ、真ん中の花道を通って追い越していく。最高待遇の列車に乗っているという優越感。鉄道ファンではなくとも心の弾む体験だ。

近鉄、JR東海道線、JR関西本線の位置(地理院地図を加工)

「ひのとり」は「のぞみ」に勝てる?

 しかし、大阪~名古屋間を鉄道で移動するとなれば、誰もが東海道新幹線を思い浮かべるだろう。「のぞみ」の新大阪~名古屋間は約50分、「こだま」だって1時間10分程度。「ひのとり」の半分程度だ。名阪間は東海道新幹線の圧勝ではないか。

大阪~名古屋間を結ぶ東海道新幹線 ©️iStock.com

 ただ、これは関東人の思い込みかもしれない。東京方面からわざわざ名古屋で近鉄特急に乗り換える人は少ないだろう。ところが、名古屋や大阪に住む人としては比較対象になる。

 料金を比較すると、新大阪~名古屋間の「のぞみ」は指定席(繁忙期)で6880円、自由席で5940円。「こだま」は指定席(同)で6670円、自由席はのぞみと同じ5940円。これに対して「ひのとり」は大阪難波~近鉄名古屋間で4540円(レギュラー車両)だ。1400円~2340円も安い。