日常で使う様々な言い回し。話していて、書いていて、ふとした瞬間に「あれ、これで言い方あっていたっけ……?」と疑念がよぎることはないだろうか。
そんな日常で直面する「微妙におかしな日本語」について、『日本国語大辞典』の元編集長で、辞書一筋37年の神永曉氏が解説した『微妙におかしな日本語――ことばの結びつきの正解・不正解』より、一部を抜粋して引用する。
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活発でないもの、衰弱したものなどに刺激を与えて元気づけるときに使う、「かつを入れる」という言い方がある。「かつ」は「活」なのだが、これを「喝」だと思って、「喝を入れる」と書く人がいる。もちろんこれは間違った表記である。
「活」は、気絶した人の息を吹き返らせる術のことで、「活を入れる」のもともとの意味は、気絶した人の急所をついたりもんだりして、息を吹き返らせることをいうのである。
一方「喝」の方は、禅宗で、修行者を叱り、どなりつけて導くときなどに用いる叫び声のことである。禅僧が、「カツ!」と大声を発しているのをドラマか何かで見たことがあるであろう。
国立国語研究所のコーパスを見ると、「活を入れる(いれる)」は28例なのに対して、「喝を入れる(いれる)」は21例ある。「喝を入れる」がかなり広まっていると見るべきで、書籍の例も多く、気をつけなければならない。
※編集部注・コーパス:新聞、雑誌、本などに書かれている言葉を集めたデータベース
また、コーパスには「活が入る」という例があるが、これは表現として問題なかろう。
ちなみに修行者などに対して「喝」と叫ぶことを、鎌倉・南北朝時代の臨済宗の僧夢窓疎石が足利直義の問いに答えた法話集『夢中問答集』(1342年)には「喝を下し」とあるので、「喝を下す」という言い方もあったのかもしれない。