「夏を制する者が受験を制する」――受験生にとって「天王山」とも言われる夏休みがやってきた。今年から新たに導入された「大学入学共通テスト」の出題傾向について、強い関心を持っている高校生は多いことだろう。なかでも注目されるのは、「国語」における「文学」の扱いだ。

 国語教科書の執筆に携わり、2022年度から実施される新指導要領にも精通する伊藤氏貴・明治大学教授が、大学入試をめぐる「国語改革」について最新情報をレポートする。

©️iStock.com

◆◆◆

ADVERTISEMENT

国語改革における「実用文」の導入

 戦後最大の「国語」改革が今まさに進行中である。大学入試と高校の授業で、私たちがイメージする「国語」の概念を根本から揺るがすほどの変化が訪れているのだ。

 今春、センター試験に代わり新たに共通テストが行われたが、それに先立って示された試行テストは2つの点で驚くべきものだった。

 1つは記述式設問である。理念自体は悪くないが、各人の考えを書かせる問題は、公平な採点という面からは到底不可能な試みと思われ、実際、導入は中止された。

 問題なのはもう1つの「実用文」の導入である。駐車場の契約書や高校の生徒会規約、またさまざまな表やグラフが1つの独立した大問として出題され、これが大学受験の「国語」の試験なのかと目を疑うようなものだった。

伊藤氏貴氏

 この「実用文」の導入は、改革のもう一方の柱である高校の指導要領改訂にも大きな影響を及ぼしている。これまで高校1年の必修科目だった「国語総合」の時間が「言語文化」と「現代の国語」とに分割され、後者において前述の契約書やグラフのような「実用文」を学ぶことになる。高2、高3では現在多くの高校が選択する「現代文B」に代わって登場する「文学国語」と「論理国語」のうち、授業時間の制約上、実質的にどちらかしか選択できないようになる。

「論理国語」とは違和感を禁じ得ないことばだが、先述の入試改革のことを考えると、ここで「実用文」が重要な扱いを受けるだろう。そしてほとんどの高校が入試対策として「文学国語」ではなく「論理国語」を選択するだろうと予想された。「論理国語」の教科書には文学作品はもちろん、文学者の評論も入れてはならぬとの文科省からのお達しで、中島敦『山月記』や漱石『こころ』のような、日本人なら誰でも読んだことがある文学作品が、契約書やグラフの読み取りに取って代わられることになる。