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なぜ高齢者男性たちは筧千佐子に「後妻」を求めたのか 「“健康にいいから”と青酸入りのカプセルを勧め、死亡後に保険金を…」

『連続殺人犯』より#2

2021/08/09

source : 文春文庫

genre : 読書, 社会

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(8)太田義和さんへの殺人

 広島県竹原市出身の太田さんは、4人兄弟の3男。海運会社に勤め、1年の大半を船上で過ごす外国航路の機関長だった。結婚したが子供は作らず、会社を定年退職してからは、関西国際空港の周辺を見回る船に乗る仕事に就いている。05年12月頃から貝塚市で年金生活を送っていたが、08年に妻と離婚。やがて太田さんは、10年10月頃に結婚相談所を通じて千佐子と知り合う。11年8月頃には千佐子を連れて竹原市に帰郷。彼女と結婚するつもりであることを親族に報告していた。また、同年12月末には、入籍前にもかかわらず、千佐子に全財産を遺贈するとの公正証書遺言を作成している。

 近所のスポーツセンターに通うなどして、健康に自信のあった太田さんだが、12年3月9日午後5時前頃、貝塚市内の喫茶店で千佐子と会った際に青酸入りカプセルを飲まされ、その後ミニバイクでスポーツジムへと移動中、泉佐野市内の路上で転倒し、死亡した。

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 広島県に住む太田さんの兄・一正さん(仮名)のもとを訪ねたところ、当時の状況について憤りを隠せない口調で言う。

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「それまで健康じゃった義和が、いきなり死んだいう連絡を受けたんよ。慌てて大阪に駆けつけたら、もう通夜の準備がされとるからって、葬祭場で待たされて、そこで遺体に対面したんじゃ。そうしたら通夜の席上でいきなりあの女(千佐子)が、遺産相続の話を始めたんよ。半年前に義和と一緒にうちに挨拶に来たときに、結婚するつもりとは聞かされとるけど、入籍もなんもしとらんからね。そのことを話すと、『公正証書がありますから』て言われたんじゃ。それでわしが、『兄弟が受け取り人になっとる生命保険があるじゃろう』て言うと、『それは名義が私に変わってます』て、ぬけぬけと口にしとったね。兄弟みんな納得いかんかったけど、争いになったらみんな家族もおることやし、大騒ぎすまいということで、諦めとったんじゃ」

 当時、最初の夫の姓である矢野を名乗っていた千佐子は、葬儀を境に太田家の親族には一切連絡を入れていないという。この事件で彼女は生命保険金やマンション売却代金など、2000万円近くの現金を手にしたのだった。