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なぜ高齢者男性たちは筧千佐子に「後妻」を求めたのか 「“健康にいいから”と青酸入りのカプセルを勧め、死亡後に保険金を…」

『連続殺人犯』より#2

2021/08/09

source : 文春文庫

genre : 読書, 社会

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(10)沢木豊さんへの殺人

 鹿児島県日置市出身の沢木さんは、81年に兵庫県伊丹市内の内装工事会社に入社。現場監督や営業の仕事をしていた。妻と息子と娘の4人で伊丹市内の一軒家に住み、92年に独立して自宅で内装業を始めた沢木さんだったが、06年に妻と離婚。子供たちも独立して一人暮らしを始めてから結婚相談所を利用するようになり、12年10月頃に千佐子と結婚相談所を通じて知り合い、交際を始めた。前出の兵庫県警担当記者は明かす。

「知人によれば、おとなしく真面目な性格だったという沢木さんの趣味は碁で、近くの囲碁教室や碁会所にも熱心に通っていたそうです。千佐子と出会い、交際するようになってからは、一緒に旅行に行ったり、沢木さんの家に彼女らしき女性が出入りする姿が目撃されています」

©iStock.com ※写真はイメージです

 沢木さんは13年9月2日に、千佐子に遺産のすべてを譲るという公正証書遺言を作成。それから18日後の9月20日午後7時頃、伊丹市内のレストランで青酸入りカプセルを飲まされた彼は、千佐子と一緒に車に乗り込んだ駐車場内で体調不良を訴えて意識を失った。そして、救急搬送された病院で約2時間後に死亡した。そのときの状況について同記者は続ける。

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「千佐子は医師に対して自分が妻だと説明し、沢木さんに2人の子供がいるにもかかわらず、家族は自分だけだと噓を言い、『末期ガンなので延命治療はしなくていい』とまで口にしていました。その結果、沢木さんの死因は持病の肺ガンということで片付けられたのです。さらにこの事件では、死因に不審を抱いた遺族が、伊丹署に捜査することを訴えていたのですが、司法解剖すら行われませんでした。遺族は、これまで存在すら知らなかった千佐子という女が現れ、預貯金や株の譲渡を約束する公正証書遺言をちらつかせて、遺産の権利を主張していることを訴えていましたが、同署の担当者は、それにもまったく耳を貸さなかったということです」

 結果として千佐子は沢木さんの遺産約1500万円を受け取った。なお、これは後に判明したことだが、この事件を起こした段階で千佐子は、知人や金融機関に多額の借金があり、預貯金はほとんどない状態だった。

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