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公正証書遺言を取り出し、親族を説き伏せた

 千佐子はこれまで、葬儀の席で親族が集まった際に、妻としての遺産についての権利を主張し、(8)太田さんや(10)沢木さんのように入籍前であれば、生前に相手が作成した公正証書遺言を取り出し、親族を説(と)き伏せた。

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 私の手許にある、千佐子の交際相手が実際に作成した公正証書遺言のコピーは、次のような文面になっている(以下、文面内の××には実際の書き込みあり)。

〈遺言公正証書

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 平成××年××月××日××法務局所属公証人××役場において、遺言者××は、証人××及び証人××の立会の下に、本職に対し、次のとおり遺言の趣旨を口授した。

 本旨

 第一条 遺言者は、遺言者が有する下記一の不動産及び二の金融機関に預託中の預貯金等を含む全ての財産を、遺言者の内縁の妻・矢野千佐子(昭和21年11月28日生)に遺贈する〉

 この文面に続き、所有する土地や預貯金の口座などが列挙され、そのうえで遺言者が、祖先の祭祀主宰者(遺言者の葬儀・納骨・法事を含む)として千佐子を指定したことと、この遺言の執行者が千佐子であることを指定したことを明記し、遺言者本人と証人2人が署名、捺印している。

 このようにして、千佐子はこれまで数多の高齢者の命を踏み台に、みずからの富を築こうとしてきたのだった。

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小野 一光

文藝春秋

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