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なぜ高齢者男性たちは筧千佐子に「後妻」を求めたのか 「“健康にいいから”と青酸入りのカプセルを勧め、死亡後に保険金を…」

『連続殺人犯』より#2

2021/08/09

source : 文春文庫

genre : 読書, 社会

「蚊も人も俺にとっては変わりない」「私の裁判はね、司法の暴走ですよ。魔女裁判です」。そう語るのは、とある“連続殺人犯”である。

 “連続殺人犯”は、なぜ幾度も人を殺害したのか。数多の殺人事件を取材してきたノンフィクションライター・小野一光氏による『連続殺人犯』(文春文庫)から一部を抜粋し、“連続殺人犯”の足跡を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

◆ ◆ ◆

CASE1筧千佐子

近畿連続青酸死事件

 まずは、起訴された4つの事件について取材した結果を、発生した年代順に説明しておきたい。

(7)末松清人さんへの強盗殺人未遂

 兵庫県南あわじ市(現在)で生まれた末松さんは、ボイラー技士として兵庫県の職員になり、淡路島に住んでいた。妻との間に3人の子供がいたが、定年退職前に神戸市に転居し、97年に妻を亡くす。定年後も兵庫県三田市でボイラー技士を続けていたが、当時から趣味で株式に投資するなどし、資産を増やしていた。

©iStock.com

 兵庫県警担当記者は説明する。

「淡路島時代の知人によれば、末松さんはふだんから体調管理に気を配り、健康な人だったそうです。彼は05年の夏に結婚相談所を通じて千佐子と出会い、その後、自分も投資をしたいという千佐子に対して、多額のカネを貸し付けていました。末松さんから千佐子への、数十万円から数百万円の振り込みが数十回確認されており、千佐子も分割して返済している形跡がありましたが、次第に滞るようになったようです。結果的に2年ほどの間に彼女の借金は約4000万円にまで膨らみ、その返済を迫られるなかで犯行に及びました」

「後妻」を求めた高齢者男性たち

 07年12月10八日午後2時頃、神戸市中央区の喫茶店で、千佐子から渡されたカプセルを飲んだ末松さんは、一緒に店を出て路上を歩いているときに昏倒。千佐子が救急車を呼んだ。幸い命は取り留めたが、低酸素脳症による高次機能障害や視力障害と診断される。ちなみにこの日は、千佐子が末松さんに借りていた4000万円の返済を約束した日だった。意思の伝達が不可能で介護なしでは日常生活が不可能な〈要介護5〉の状態となった末廣末松さんは、その後も入退院を繰り返し、約1年半後の09年5月に死亡した。当時、死因は胃の悪性リンパ腫と診断されていた。同記者は続ける。

「千佐子は『健康にいいから』と青酸入りのカプセルを勧め、まず自分が青酸の入っていない同じカプセルを飲み、相手を信用させていたそうです。末松さんについては司法解剖が行われておらず、血液が残されていなかったのですが、大量の診療記録があり、救急搬送された末松さんの症状が、青酸中毒のものと矛盾しないという証言を、複数の専門家から得たことで、立件に繫がりました」