北九州に住む書店員であるかぁなっき氏。彼はこれまでに集めてきた膨大な実話怪談のアーカイブを武器に、映画ライターであり大学時代の後輩である加藤よしき氏とともに、猟奇ユニット“FEAR飯”を結成。そして2016年からライブ配信サービスTwitCastingで「禍話」という実話怪談チャンネルを続けてきた。
ホラー好きの間でそのクオリティが高く評価され、2021年の7月には、ABCテレビ、そしてインターネット配信という形で実写ドラマ化まで果たすなど、その勢いは止まるところを知らない。今回は、そんな「禍話」のなかでも抜群の恐怖度を誇ると名高い「釣り先輩」をお届けする。大学の先輩と行った釣りスポットで起こった不可解な出来事とは――。(全2回の2回目。前編を読む)
◆ ◆ ◆
「え、あんた今T先輩といんの!?」
車内のランプを点け、リクライニングシートを下げてキャップを脱ぐ。
「恵比寿さんて……マジで言ってんのか」
ため息をつきながら携帯の画面に目をやると、時刻は20時半を回っている。Kさんは、今日の飲み会に誘ってくれていた大学の友人Mさんにメールをしてみた。
「飲み会行けばよかったって今後悔し始めたんだけど。慰めてくれ~」
正直、盛り上がった飲み会の最中に返事が返ってくる期待はしていなかったが、意外にも数分ですぐに返信があった。
「え、デートしてたんじゃないの? 何があった?」
画面を見ながらフッと笑みが漏れる。メールしてよかった。そういえば、Mさんには意味ありげに「予定があるから」と冗談めかして断っていたのだった。
「正直に告白します。デートじゃないです。T先輩とサシでまさかの夜釣り童貞喪失中です。なお、喪失したのはやる気だけでした……」
はぁ~~……とため息をつくKさん。すると、突然手に持った携帯に着信があった。
ブブブブブブブ! ブブブブブ!
「お、はいはい~」
「え、あんた今T先輩といんの!?」ガヤガヤとした飲み屋の喧騒のなかから、少し焦った様子のMさんの声が聞こえてきた。
「え、うん。夜釣り中で、今俺だけ車に逃げてきた~」
「……まじで一緒にいるっぽい」Mさんが電話口から遠のき、様子をうかがっていると思しき飲み会のメンバーに話しかける声が聞こえて、Kさんはただならぬ空気を感じ取った。
「なになに……みんな聞いてんの?」
「あんたさ、今、タクシーとか呼べるんだったらすぐ帰ったほうがいいよ……」
「は? どゆこと?」
「普通の神経だったら絶対そこ行かないって……今、先輩見えるの? 電話してんの知ってんの?」
「いや……」
思わずシートを起こし、窓の向こうの暗がりに佇む先輩に目をこらす。
「……多分、普通に釣りしてるっぽいから気づいてないと思うけど」
「カネは? 5000円くらいならウチら出すからここすぐきな!」