北九州に住む書店員であるかぁなっき氏。彼はこれまでに集めてきた膨大な実話怪談のアーカイブを武器に、映画ライターであり大学時代の後輩である加藤よしき氏とともに、猟奇ユニット“FEAR飯”を結成。そして2016年からライブ配信サービスTwitCastingで「禍話」という実話怪談チャンネルを続けてきた。

 ホラー好きの間でそのクオリティが高く評価され、2021年の7月には、ABCテレビ、そしてインターネット配信という形で実写ドラマ化まで果たすなど、その勢いは止まるところを知らない。今回は、そんな「禍話」のなかでも抜群の恐怖度を誇ると名高い「釣り先輩」をお届けする。大学の先輩と行った釣りスポットで起こった不可解な出来事とは――。(全2回の1回目。後編を読む)

©iStock.com

◆ ◆ ◆

ADVERTISEMENT

「釣り行こうぜ」

 この話はかぁなっき氏が知人から聞いた話だという。

 北九州の大学に通っていたKさんは、その頃バイト先が繁忙期になり大学を休むことが多かった。その日は2日ぶりの大学だったのだが、バイトの疲れもまだ残っており、少しぼーっとして、頭が冴えなかったそうだ。

 友人たちと同じ授業のときはまだ楽しかったが、一人で受ける大教室での授業では居眠りする場面も多かった。そんな授業の終わり、ほかの学生たちがバラバラと教室から出て行く雰囲気で目を覚ましたKさんは、目の前に先輩のTさんが立っていたことに気がついた。

「あ、お疲れ様です」

「寝てた?」

「あ、ちょっとバイト続いてて……」

 体を起こすKさんの隣にT先輩が腰掛ける。

 T先輩は“友達のサークルの先輩”で、特段2人きりで話すほどには親しくなかったこともあり、隣に座ってきたことに少々驚きがあったそうだ。

「釣り行こうぜ」

「え?」

 翌日、17時半ごろに自宅で目覚めたKさん。

 夜釣りなんて初めてだ。夜に備えて昼から寝ていたが、時間通り起きられたことにひとまず安堵したKさんは、あらためて携帯で昨日先輩からもらった待ち合わせ場所のメールを確認する。

 先輩とのメールはそれが初めてだった。そんな距離感の人と長時間一緒にいて大丈夫なのだろうか……。

 昨日先輩とあんな約束しなければよかったかな、という思いが一瞬頭をよぎった。

 だが、昨日のぼーっとした頭では、道具一式は全部先輩が用意し、車も出してくれ、さらに結果次第では美味しい海の幸まで味わえるというその申し出は、魅力的だった。