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役者自身も、何がOKで何がNGかはわからず撮られている

――この映画でまさにすごい「何か」が起こっているシーンは、高槻と家福が、車の中でお互い正面を向いて喋るシーンだと思います。あそこは、それぞれ車の中に置いたカメラに向かって喋っているわけですよね。

濱口 はい、ただ一応相手役にはカメラの脇にいてもらいました。岡田くんが話しているときは、西島さんにはカメラの横のトランクみたいなところにすごく無理な体勢でいていただき、岡田くんにもその逆をやってもらいました。ただ、それ以上に大事だったのは、一度お互いに見合いながら通しで演じてもらうことです。一度は通してみないと真正面に入っても演じるのが難しくなるし、通しのテイクでOKが出ない限り真正面に置くことはありません。

高槻役の岡田将生 ©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――普段も、切り返しの場面を撮る際には必ず通しでまず撮るんですか。

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濱口 最近の作品ではほぼそうですね。まずテスト代わりに引きで撮り、次に切り返しで、という進め方が多いです。引きで撮った場面が思いがけず一番よく撮れていた、ということもあるので、よほど危険なシーンでない限りは兎に角テストはそこそこに、いきなり本番から始めることが多いです。現場でNGを出すことも滅多にない。実際通しの演技のどこかには必ずよいところがあります。舞台公演みたいな感じです。もちろんどの公演も良し悪しはあるでしょうけど、お客さんにとっては一回きりの演技なのだからすべての公演はOKでないといけない。あらゆるテイクで、とにかく一回一回一生懸命演じてもらい、ひたすら繰り返すうち気づいたらカメラの位置が変わっている、というのが役者さんの感じ方ではないかと思います。ただ通しの演技は役者さんにとって演じやすい部分もある半面、繰り返しがあまりに多いと本当に疲れるはずなので、どこでバランスを取るかは未だに難しい問題ですね。

©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

――ところで本作の撮影監督である四宮秀俊さんは『きみの鳥はうたえる』(18)をはじめ三宅唱監督とよく組まれている方ですが、濱口さんからお願いされたんですか。

濱口 ええ、佐藤央さんという同世代の監督との共同作業で前々から知っていましたが、三宅監督の『きみの鳥はうたえる』は特に素晴らしかったですし、ぜひ次は一緒にやりたいとお願いしました。今回ご一緒して、改めてフレーム感覚、つまりは人物との距離の取り方やレンズの選択が抜群だな、という気がしました。俳優は基本的には立ち位置を十分に指定されているわけではないし、基本的にカメラを三脚に据えるようにお願いしているので、撮影部の負担は相当大きかったと思いますが、テストを見た後で「ここ」とカメラを据える位置がことごとく正しい、と感じました。その思いは編集時により強まりましたね。『ドライブ・マイ・カー』は特にこの俳優とカメラの調和が感じられると思うのですが、俳優の演技の素晴らしさを損なわずに柔らかく、けれど確かに捉える、四宮さんの感性と能力があってこそのものだと思います。