当分は両方を行き来する形になるかなと思います
――『ドライブ・マイ・カー』は濱口さんにとって商業映画2作目ですが、商業映画という枠組みは強く意識されるものですか。
濱口 意識はしています。予算が大きいとできることは増えていきますがそのぶん冒険がしづらくなる、という面は間違いなくある。ただ、大勢のスタッフがそれぞれの能力を持ち寄ってスクリーンを埋めていってくれる贅沢さは商業映画でしかできないことでもある。それは相米慎二の映画を見ていて感じるところでもあります。
――濱口さんは学生時代からインディペンデント映画を数々手がけてきたわけですが、『ドライブ・マイ・カー』では、『寝ても覚めても』以上にこれまでの濱口映画をつくってきた要素がぎっしりと詰まっているような感触を覚えました。商業映画2作目ということで、今回はより自由にやれたなという感触はあるでしょうか。
濱口 『寝ても覚めても』を作り、商業映画ではこれだけのことができる、一方でこういうことはしづらい、という基準がわかってきた。逆にインディペンデントに近い規模で作った『偶然と想像』(21)では、特に役者との準備の面でなるほどこうすればより短い時間でこういうことができる、とかここは絶対に時間をかけなくてはいけないんだ、という感覚をより精緻なものにできた。『ドライブ・マイ・カー』では両者の要素を総合していく感じがありました。今回は『寝ても覚めても』とほとんど同じ座組で、特に山本(晃久)さんと定井(勇二)さんという二人のプロデューサーは、僕の映画の作り方に非常な理解がある人たち。『寝ても覚めても』で何がどこまでできるかを全員共有できたので、そこから先さらに何ができるかを、みんなでやってみたという感じです。
――今後も、商業映画とインディペンデント映画、両方を並行してやっていく形になるのでしょうか。
濱口 商業映画だからこそできることもインディペンデント映画でしかできないこともある。今はそのバランスを探っている時期で、当分は両方を行き来する形になるかなと思います。
――大予算の映画も、やれたらやってみたいと思われますか。
濱口 それはもちろん。予算が増えれば広がる映画の可能性というものはあるし、スタッフやキャストの生活の基盤を作る上でもいいことですから。そこは全然否定せずやっていきたいです。
はまぐち・りゅうすけ 1978年生まれ。2015年に監督した『ハッピーアワー』でロカルノ国際映画祭最優秀女優賞を受賞し、大きな注目を集める。『寝ても覚めても』に続きコンペ部門に正式出品された『ドライブ・マイ・カー』で日本映画として初めてカンヌ国際映画祭脚本賞(大江崇允との共同脚本)を受賞、国際映画批評家連盟賞他独立賞3賞も受賞した。ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『偶然と想像』は今年12月に公開予定。
INFORMATION
『ドライブ・マイ・カー』
8/20(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
出演:西島秀俊 三浦透子 霧島れいか/岡田将生
監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介 大江崇允 音楽:石橋英子
原作:村上春樹 「ドライブ・マイ・カー」 (短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
配給:ビターズ・エンド
<2021/日本/1.85:1/179分/PG-12>
©️2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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