「撮影の現場でふと思い出したことがあります。小さいころに学校から帰ってきてすぐ“今日のおかずはなに?”と台所をのぞき込んだときの光景です。あのころは当たり前のように続くと思っていましたが、いつの間にかそういう時間を忘れていたんですよね」
それは内山理名さんだけの思いではないはずだ――。
11月4日から全国で順次公開される映画『ゆらり』は、ある家族の「現在」、「未来」、「過去」を3世代通して描く物語。時代は違っても、家族の関係、そして人の心は変わらないという思いが込められた作品だ。
「私もやってしまうんです。親からかかってきた電話を、『いま忙しいから……』とあとまわしにしてしまうようなことを。きっと家族だから分かってくれるだろうと、どこかで甘えているのでしょう。でも、そういう態度はあとで必ず気にかかってしまいますよね。悪かったなって。些細なことだけど、それは心に残り続けていくんですよね」
そうして積み重なるものが、この作品の世界を作り上げていく。今回、内山さんは日常を演じる表現の難しさを痛感したという。
「普段の、何でもない場面を切り取る。横尾初喜監督はそこを大切にしたかったのではないでしょうか。お芝居はメッセージを伝えようとするほど、どうしても何かを加えたくなってしまうんですよね。そこをどれだけ自然に臨めるか。わざとらしくならないように心がけた作品でした」
原作・脚本は、劇団「TAIYO MAGIC FILM」を主宰する西条みつとし。過去、再演もされた舞台版に惚れこんだ横尾監督が実写化を熱望し、本作で映画監督デビューを果たした。
「よくできているお話なんです。あまり事前にお伝えしない方が楽しめると思いますので詳しくは触れられないのですが、全編を通して見えてくるものがあるとすれば、それは誰もが胸に抱く“悔い”への思いです。あの時こうしていれば、ということってありますよね。もう1度やりなおせたら、と。でもそれが不可能だからこそ、一瞬一瞬、感じた思いは相手に伝えることが大切だと教えてくれる作品なんです」
「ありがとう」や「ごめんなさい」という言葉がもつ力、そして重みに気づかされるのではないだろうか。
内山さんに蘇った冒頭の台所の記憶は、同時にこんな気持ちを湧きあがらせたという。
「台所や食卓って不思議と本音を話せる場所ですよね。そこで親子一緒にごはんを作り、食べる。その時、きっと素直な心で向き合えるはずです。そんなことを考えると、もっと母の手料理のレシピを聞いておかなきゃ、と心がワサワサしました(笑)」
うちやまりな/1981年神奈川県生まれ。98年デビュー後、ドラマやCMで幅広く活躍。またヨガインストラクターの国際資格・全米ヨガアライアンスのRYT200を取得しインストラクターとしても活躍中。11月24日より始まる連続ドラマ『マチ工場のオンナ』(NHK)では主演も務める。
『ゆらり』
出演:岡野真也、内山理名、戸次重幸、萩原みのり、山中崇、遠藤久美子、平山浩行、渡辺いっけい、鶴田真由
11月4日(土)~池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
http://yurari-movie.com/