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《財務省の謎》なぜ灘・麻布出身者はトップになれないのか「頭は良いけど、どこか醒めている」「受験勉強よりニーチェを読んでいるほうが格好いい」

『財務省の「ワル」』より#2

2021/08/09

genre : 社会, 読書

note

「頭は良いけど、どこか醒めている」

 そう開成対麻布の校風を対比しながら、別の角度からこんな見方を披露した。

「一言でいえば、頭は良いけど、どこか醒めている。受験勉強にうつつを抜かすくらいなら、ニーチェを読んでいるほうが格好いい。受験戦争に背を向けるポーズを取りながら、軽々と東大に合格してしまうみたいな、そういう人間が評価される傾向が非常に強い」

 創立以来の「自由闊達・自主自立」の校風で育つと、都会派ニヒルの言葉そのままに、頂点を目指して一心不乱に努力するといった姿に引け目を感じるのだろうか。その目指すべき先が「立身出世」であればなおさらで、腹の内はともかく、「次官になりたい」などという願望は微塵も感じさせてはならないし、それを仲間に悟られたら恥ずかしいと思うようだ。

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 そうした都会派ニヒルの行動様式は、組織にあって群れることを嫌う態度となって現われる。よくいえば「長いものには巻かれない」独立自尊の精神を貫くことにつながるわけで、北杜夫、小沢昭一、ドクター中松など麻布出身の有名人を見ても、自由な生き方を謳歌した人物像が浮かんでくる。官界でも、元経産官僚で安倍政権を激しく批判した古賀茂明や、文科省次官を引責辞任した後に『面従腹背』(毎日新聞出版)という本を出して話題を呼んだ前川喜平をはじめ、一筋縄ではいかない人物が少なくない。

©iStock.com

 ただ、都会派ニヒルは文学や芸能、発明の世界では通用しても、官界では通じにくい面がある。まして官庁の中でも上意下達の軍隊組織に似て一糸乱れぬ統制ぶりを身上とする財務省では、長いものに巻かれる姿勢を見せないと、上司の評価を得られにくい体質があるのも確かなのだ。

 ついでながら付け加えると、麻布と灘は、双方の間で転校が可能な規定になっている。その事実一つ取っても、両校の似たような校風を物語るのかもしれない。

財務省の「ワル」 (新潮新書)

岸 宣仁

新潮社

2021年7月19日 発売

《財務省の謎》なぜ灘・麻布出身者はトップになれないのか「頭は良いけど、どこか醒めている」「受験勉強よりニーチェを読んでいるほうが格好いい」

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