完成した作品でのジュリーは、ただ志村の代わりを務めているなんてことはなかった。盟友の気持ちをしっかりと抱きしめ、ジュリーならではのゴウを見事に演じ切っていた。
傍から見たら「しょうがねぇな」とクスリとしてしまうが、実際に身内だったら本気で参ってしまう困り者にも程があるゴウを演じているジュリーに笑って泣かされた。
妻の淑子と娘の歩に啖呵を切って家を飛び出したものの、身を寄せる場所がないためにテラシンが営む名画座へ。ロビーのベンチに寝ていたゴウは、売店からビールを失敬しようとする。その抜き足差し足忍び足に、志村との数々のコントで見せてくれた動きを思い出して笑って泣いた。
「じゃあ、四丁目から!」と『東村山音頭』を熱唱
そして終盤では「じゃあ、四丁目から!」と『東村山音頭』を熱唱。このジュリーから志村へのオマージュには、ふたりで同曲を熱唱した『金曜オンステージ ふたりのビッグショー 沢田研二&志村けん』(NHK・01)を思い出して、泣けて、泣けて、どうしようもなくなってしまった。
また、志村はアロハシャツを好んで着ていたが、劇中のジュリーもアロハシャツでキメている。これがまた“鏡コント”での“似てないようで、やっぱり似ている”ふたりの姿にも重なってきて、やっぱり泣けてくる。
ジュリーの打役決定にともない、山田監督は志村けんで当て書きしていた脚本を修正したという(※2)。ジュリーのゴウとして物語を書き直したそうだが、この作品を志村とジュリーの友情と絆、それぞれの人生が交錯するような物語にもしたいと考えたのではないか?
そう強く思えたのが、松竹撮影所を辞めて故郷に帰るというゴウを放っておけない淑子が、彼と夫婦になろうと決意するシーン。
駅に向かったゴウを追いかけようとする淑子を車に乗せてやった園子は、彼女に「あなたはゴウちゃんと結婚して後悔するかもしれないのよ。でもしなくたって後悔するの」という言葉を掛ける。
そのセリフから、志村の入院が発表された日の『あいつ今何してる?』(2020年3月25日放送、テレビ朝日系)に登場した、志村が結婚まで考えたという元恋人を筆頭に、数々の女性たちと流した浮名を思い浮かべてしまう。志村にとって最後のテレビ出演となったその番組で、元恋人を選んだ理由を「今は幸せですか?」と聞いてみたいからと語り、「結婚して上手くいってれば、それが一番良いかな」と続けた。そして同じ山田洋次監督の『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』(82)での運命の出会いを経て再婚に至ったジュリーと田中裕子の姿もフラッシュバックした。
さすがに考えすぎだし、自分でも偏った見方をしてしまっているとは思う。だが、山田監督がジュリーと志村に向けた愛おしむような眼差し、ジュリーによる志村への50年にもおよぶ友情、絆、想いを込めた力演に呼応して、ふたりの人生を投影させながら物語を追ってしまうのだ。
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【参考資料】
『キネマ旬報』「ドキュメント キネマの神様 第1回」(2021年6月15日号、※1)
『キネマ旬報』「ドキュメント キネマの神様 第3回」(2021年7月15日号、※2)
『キネマの神様』プレス資料
INFORMATION
映画『キネマの神様』
監督:山田洋次
脚本:山田洋次 朝原雄三
原作:原田マハ「キネマの神様」(文春文庫刊)
出演:沢田研二、菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎、北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子
配給 :松竹