長時間労働の是正、女性登用の促進など、日本の職場が解決すべき問題は数多い。そんな課題に積極的に取り組もうとする社員は貴重な存在だ。しかし、その努力が裏目に出てしまうことも少なくない。

 ここでは、ジャーナリストで近畿大学教授の奥田祥子氏が日本の労働環境について20年以上にわたる取材を行った『捨てられる男たち 劣化した「男社会」の裏で起きていること』(SBクリエイティブ)の一部を抜粋。女王蜂症候群に陥った女性の体験談を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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管理職に就いて「活躍の場を広げたい」

 西日本に本社のある中小の繊維卸売業の経理部に在籍する山口恵さん(仮名)を初めてインタビューしたのは、女性活躍推進法が成立した2015年のことだった。

 翌16年から始まる行動計画の策定・公表は従業員300人以下の企業は努力義務ながら、あまり報道されることのない中小企業での女性登用について話を聞くのが目的だった。

 当時34歳の山口さんは学卒時が就職氷河期にあたり、百社近くも採用試験を受けたものの、正社員での内定を得られず、契約社員として今の会社に入社した。経理事務を3年担当した後、働きぶりが認められて正社員(総合職)に登用されてから8年、経理部で実績を積み上げ、管理職を目指しているという。契約社員の間に簿記やビジネス会計の資格を取得するなど、並々ならぬ努力を重ねてきたことは明白だった。

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 管理職を志す理由について、結婚への考えも含め、真剣な表情で語ってくれた。

「大企業に比べ、中小は総合職でも職種異動が少なく、専門性を高められるのが良いところで、自信もつきます。さらにスキルを高めて後進を指導し、活躍の場を広げていきたいのが、管理職になりたい理由です。2、3年前から少しずつ後輩にアドバイスしたりする経験を積んでいます。課長になるまでは結婚はお預けですね」

 中小は企業規模で違いがあるが、山口さんが勤務する従業員数十人規模であれば、管理職に占める女性の割合は、大企業を含めた平均値よりも高い傾向にある。

 ただ、社内に女性の管理職は一人もおらず、経理部は山口さん以外は皆、男性だという。何か不安はないのだろうか。質問すると、わずかに眉間にしわが寄る。

「そうですね……。男性の上司との関係は経験を積んできたので問題ありませんが、後輩、やがて部下になる男性に関してはまだ慣れていないので、うまく指導していけるのかと……。女性の部下だったらうまくいくと思うんですが。でも、頑張ります」

 不安も織り込み済みで、管理職を志している姿は凛々しくも見えた。