「つい感情的に……」女性部下へパワハラ
この数ヵ月後からコロナ禍に見舞われたこともあり、課長として多忙を極める山口さんに電話やオンラインでのやりとりであっても、インタビューをお願いするのはためらわれた。近況を尋ねたメールへの返信も途絶え、1年余りが過ぎた頃だった。
「パワハラで訴えられてしまいました」──。
2回目の緊急事態宣言の延長が決まってしばらく経った21年の早春、やっと届いた彼女からのメールの内容に目を疑った。詳細は書かれていなかったが、部下との関係がうまくいかず、パワハラであると人事部の相談窓口に訴えられ、経理部員たちへのヒヤリングの結果、パワハラと認められたという。1週間後、面会取材が実現した。
週末の昼過ぎ。取材場所の喫茶店に現れた山口さんはマスクをつけていても顔色が悪いことは明らかで、うつむき加減で背中を丸めて席に着く。それまでの凛とした態度はすっかり影を潜めていた。
「大変でしたね」
「……………」
「ゆっくりで結構ですので、少しずつでもお話ししてもらえますか?」
「……ちから、ぶ、そく……」
「えっ、何とおっしゃいましたか?」
「やはり、私では力不足だった、のだと、思います。課長になるには……。だから、パワハラなんて起こすことになったのだと……」
「でも、当初心配されていた男性の部下の人たちとはうまくいっていると、おっしゃっていましたよね?」
「その通りです、男性部下とは。私をパワハラで訴えたのは、女性の部下なんです」
ここで初めて、女性からの訴えであったことを知る。
「これまで女性の上司はもちろん、女性の後輩、部下と一緒に仕事をした経験がなかったので、どう指導していいのか、わからなくて……。経理は未経験でまだ全然、役に立っていないのに、生意気なところがあって……。男性の部下には冷静に対応できるのに、女性の部下が言うことを聞かないと許せなくて、つい感情的になってしまいました。気づいたら、パワハラ行為になっていたようで……」
山口さんをパワハラで訴えたのは、入社7年目の29歳で、2歳の長男を子育て中の女性社員。人事部から異動してきて2ヵ月後のことで、山口さんは課長に昇進してから8ヵ月が過ぎた頃だった。業務の直接の指導は、他の部下に任せていたが、その女性部下の単純ミスを経理部の皆が着席している場で大声で叱ったり、残務を他の部員に任せ、育児中の時短勤務で引き揚げようとするのを無理やり引き留めて仕事をさせたりしたことが、問題になったという。