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「『男社会』で必死に頑張ったのに…」部下からパワハラで訴えられた女性上司が嵌った“女王蜂症候群”という落とし穴

『捨てられる男たち 劣化した「男社会」の裏で起きていること』より #2

2021/08/29

「女の敵は女」という落とし穴

 女性上司が、男性よりも女性の部下に手厳しく対応する現象は「女王蜂症候群」と呼ばれる。米国・ミシガン大学の3人の心理学者、グラハム・ステインズ、トビー・エプスタイン、キャロル・タブリスが1973年に発表した論文で初めて登場した言葉・概念で、70年代後半にかけて欧米で話題となった。男性優位社会で努力して指導的地位に就いて成功した女性ほど、そのポジションに固執し、自分より職場で下位にあり、かつ有能な女性を、自身の地位を脅かす存在、すなわち「敵」とみなす。指導して助けるどころか、足を引っ張って昇進を妨害するという。女王蜂が、ライバルとなるメスと敵対する習性からそう名付けられた。

「女王蜂症候群」に関する論文が世に出た時期は、ウーマン・リブ(女性解放運動)が米国から世界へと広がった時期とも重なり、欧米では女性の社会進出に伴って表面化した問題だった。日本ではようやく、国の「女性活躍」政策の推進も相まって、女性管理職と女性部下という従来にはなかった職場の人間関係が生まれたことで、「女王蜂」問題が水面下で広がりつつあることを取材を通して目の当たりにした。この問題が可視化されにくいのは、「女性は同性同士の上下関係で問題を起こしやすい」といった男性管理職らによるジェンダー・バイアスが存在しているためである。欧米がそうであったように、経験を重ねながら、働く者と雇用する側がともに乗り越えていくしかないのだ。

 山口さんのケースに話を戻すと、女性部下との関係の悪化にはライフスタイルの違いも影響していたようだ。

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「私は仕事を優先して、結婚も出産も諦めざるを得なかったのに、彼女(女性部下)はいずれも手に入れ、さらに管理職まで目指そうとしていて……。そんな女性の生き方が称賛される世の中になって、自分はその理想像から外れている。どうしても、憤りを抑えられなかったんです」

 パワハラと認定され、譴責の懲戒処分を受けた直後、自ら降格を申し出た。現在は、総務部に役職なしで在籍している。

©️iStock.com

「パワハラで訴えられたことがトラウマとなり、上に立つ仕事をするのが恐ろしくなってしまいました。『男社会』で必死に頑張って、やっと手に入れたポストだったのに、女性部下への対応で失敗するなんて……。自分の過失ではありますが、『女の敵は女』ってこういうことを言うんでしょうか……」

 山口さんは経験とスキルがあり、課長としての一定の能力を備えていたと考えられる。思わぬ落とし穴が、彼女のいう「女の敵は女」だったのかもしれない。

【前編を読む】働き方改革を進めるはずが「逆パワハラ」が始まった…すべての社会人が知っておきたい“部下”からの逆襲の“リアル”

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