ヤクザ、半グレ、事件屋、詐欺師……。彼らはいったいどのようにしてお金を稼いでいるのか。そこには裏社会に生きる人たちならではのさまざまなテクニックが隠されている。
作家・編集者の草下シンヤ氏は、裏社会の人間との交流を深め、彼らが用いるさまざまな交渉術を聞きだした。その一端をまとめたのが『裏のハローワーク 交渉・実践編』(彩図社)だ。ここでは同書の一部を抜粋。交渉のプロ「総会屋」の男が語った強引にして華麗な手口を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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「情報戦を制すれば、交渉はすでに手中にあり」
総会屋は交渉のプロである。
企業相手に難癖をつけ、機関紙を購読させたり、観葉植物や絵画を借りさせるのだから、その手法は巧みだ。
しかし二度にわたる商法改正で、総会屋は壊滅的な打撃を受けた。総会屋とのつながりが発覚すれば企業側も罰せられるようになり、そのため企業が総会屋との縁を切りにかかったのだ。
それ以来、総会屋は絶滅の危機に瀕し、協賛金にまつわる恐喝事件もなりを潜めるようになった。
しかし総会屋が滅びたわけではない。
むしろ淘汰の時期を経て、力のある者だけが残ったのである。ある者はインターネットを主戦場にブラックジャーナリストとして活動し、またある者は暴力団と結託して、縮小されたマーケットの中で生き抜いているのだ。
筆者が体験した総会屋の交渉力の高さ
私は前著『裏のハローワーク』で、総会屋の間淵氏(仮名)に取材する機会を得た。インタビューの趣旨は「総会屋の仕事内容を知りたい」というものである。
しかし、この取材においては一悶着あり、図らずも総会屋の交渉力の高さを思い知らされることになった。筆者が体験したそのままをここに記したい。
一部前著でも触れたが、印刷直前になって、「インタビュー記事の掲載を辞退させていただきたい」との申し出があった。
「すでに印刷は準備段階に入っています。このような直前になって辞退など認めることはできません」
私は主張したが、間淵氏はガンとして譲らない。あまりにも強固な姿勢であった。
最終的には「人となりを憶測できない記事に差し替える」ことで決着し、原稿がまるまる抜け落ちるという最悪の事態は免れたものの、私は残念で仕方なかった。リライトする労力はまだしも、書き上げた原稿に「悪くする」方向で手を入れるのはライターとして断腸の思いである。