三遊亭白鳥が『サラ金の歴史』(小島庸平 著)中公新書

 コロナ禍で仕事が激減した落語家が読むには辛い本であった。しかしこんな時代を生きていくためには必要な本なのであろう。金貸しの話は落語にも沢山ある。

 サラ金の歴史でまず面白いのは、19世紀末貧民窟で行われた金貸しが男の義侠心から来ているという点であろう。落語によく出てくる登場人物の兄貴分である。「大工調べ」の棟梁だ。困った弟分与太郎の面倒を見る男らしさ。そのかっこよさに憧れて金貸しになるものが大勢いた。

 そして次に産まれたのが素人の高利貸しだ。友人、同じ会社の人間に金を貸して金利を取る。知っているからこそ安心して金を貸すことができる。この、人との信用が金貸しにとって一番大切なことだ。

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 20世紀中頃から団地金融が始まる。そしてこの頃にサラ金大手が産声を上げる。

 知らない相手に金を貸すには、どういう人間か信用出来なければ貸すことができない。当時、公営団地に住むには厳正な審査があった。その審査自体が団地に住む人間の信用になる。

 また、家族体系を理解する事が金貸し業者にとっての目の付け所。亭主が働き奥さんが専業主婦。そんな奥さんが生活に困って金を借りるのではなく、突然の出費や娯楽のためにお金を借りる。そんな人物像を咄嗟の状況判断とカンで嗅ぎ分けお金を貸すのだ。恐るべき、金貸しの執念!

 そしてサラ金は時代の波に翻弄されていく。しかしその波を逆手に取り、サラ金が規模を拡大していくところがすごい。

 もちろんその後、ご存じのように「異様な取り立て」「過払い金問題」とサラ金冬の時代が到来する。身の毛もよだつような多重債務者の話なども載っている。

 しかし著者は「サラ金は悪だ」と決めつけたくない。サラ金問題を他人事ではなく自分事として認識する事が大事だと書いている。

 俺は前座二つ目時代極貧生活を送っていた。池袋の家賃12000円のアパートに15年間住んでいた。腹が減っても金がなく線路際の雑草を食ったこともある。でもそんな時でもサラ金から金を借りようなんてこれっぽっちも思わなかった。返すあてもないのにそんな恐ろしいことはできない。

 今テレビで消費者金融のCMがよく流れているが、世の中そんなにお金を借りる人がいるのかいつも不思議に思っていた。でもCMを流せるというのは儲かっている証拠だ。お金を借りに来る人が沢山いるのであろう。だからサラ金はなくならない。今コロナで仕事が減ってお金を借りようとしている人は是非本書を読んで欲しい。金を借りるということはどういうことか。

 俺が一番心に残った言葉は「多重債務者は匂いでわかる」。これが金を借りる怖さだ。俺は読み終わって「金が無いなら金が無いなりの身の丈にあった生活をしよう」と決めた。でも雑草だけは食べたくないなあ。

こじまようへい/1982年、東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科准教授。農学博士。著書に『大恐慌期における日本農村社会の再編成』、共著に『戦後日本の地域金融』『昭和史講義2』など。
 

さんゆうていはくちょう/1963年、新潟県生まれ。落語家。2001年真打に昇進、05年彩の国落語大賞受賞。落語絵本等著書多数。

サラ金の歴史-消費者金融と日本社会 (中公新書 2634)

小島 庸平

中央公論新社

2021年2月20日 発売