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ブックガイドの構成は、まさに書店のフェアの棚作り

――古今東西の名著がセンスよく散りばめられていて、まるでよく考え抜かれた本屋さんの名著フェアのよう(笑)。もともと書店員さんだった経験も生きているんでしょうか?

石井 ブックガイドの構成ってまさにフェアの棚作りに似てるのかも(笑)。最初に就職したのが八重洲ブックセンターで文芸書の棚の担当でした。文芸書が好きでしたから。

 その後浜松町のブックストア談、ネット書店のセブンアンドワイなどを転々とするんですが、本を読むことと同じくらい本を売ることが好きでした。ちょっとした仕掛けで本を沢山売るとか、効率よく在庫を入れ替える方法を考えたりするのが大好きで。もう絶版になると聞いた本を在庫全部仕入れて100冊売り切ったりとか、ホント楽しかったですね。

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――書く仕事をするようになったきっかけは?

石井 ネット書店時代に、本の仕入れだけでなく著者インタビューのコーナーも担当していたんです。最初は編集みたいなことをやっていたのですが、上司に「自分でも書かないの?」と言われて、作家のインタビューをしてまとめるようになったのがライターとしての最初の経験です。その後、フリーになってからは豊崎由美さんの後押しもあって、「週刊文春」などいろいろな媒体で機会をいただき、インタビューと書評の仕事をやるようになって今に至ります。もうかれこれ17年くらいになりますね。

名著には、今を生きる力に直結する学びがある

――今回の本にも通ずるインタビューの醍醐味って何でしょう?

石井 投げかけた質問によって生まれる言葉って、生身の人間に向けて語ってくれるものだから、ダイレクトに熱が伝わってくるんですね。語り手が何を心から面白いと思っているか、何を本気で伝えようとしているのか。

『名著のツボ』の取材でいうと、みなさん本と真剣に向き合ってきて、深い知見を持っていらっしゃいます。連載の途中から新型コロナウイルスの感染拡大が始まって、名著にかこつけた人生相談みたいなこともしていましたね(笑)。先行きが見えない不安な状況を乗りきる手がかりがほしくて。感染症のような非常事態にも対応できる知のあり方として、アリストテレスの〈フロネーシス〉という概念を哲学者の納富信留さんが教えてくれたりして、今を生きる力に直結する学びも多くありました。

 名著は語られることによって新たな価値を帯びます。その瞬間に立ち会えたのが何よりもの喜びでしたし、その知的興奮と感動をとことん濃縮したのが『名著のツボ』です。きっと、読者のみなさんの人生にとって大きな意味をもつ一冊に会える最高のブックガイドですし、すでに読んだことのある名著なら新たな発見で、出会い直しもできるはず。ぜひ楽しんで頂けたら嬉しいです。

 

(撮影:文藝春秋/三宅史郎)

石井千湖(いしい・ちこ)

 1973年佐賀県生まれ。書評家、ライター。早稲田大学卒業後、書店員を経て、現在は書評とインタビューを中心に活動し、多くの雑誌や新聞に執筆。著書に『文豪たちの友情』、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある。