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私は人生のピークを80歳に設定しているんです

 予審の法廷で、370年を検察から求刑されることを弁護士から聞いて、思わず脱糞したのにはいささか訳がありました。それまで刑事に逮捕状を見せられる都度に急性下痢となり、トイレに駆け込む癖があったからです。

 事情を知らない刑事が慌てて「逃げるな」とトイレに駆け付けてきたこともありました。

 驚くと下痢をおこす、の悲しい体質になっていたのですが、それがこの鬼畜米英の本拠地アメリカ連邦法廷で起きたことは誠に残念でした。かろうじてトイレに駆け込み処置を施し、醜態をさらすことからは免れましたが、「懲役370年」が覆いかぶさってきました。

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 日本では検察から起訴をされると99.9%の確率で有罪になります。なまじ日本での裁判の体験をしているだけに、「懲役370年」の起訴は天地がひっくり返るほどの衝撃でした。370年とは、死して4度を重ねないと故国の地を踏むことができない勘定です。よくアメリカの監獄映画で人間の寿命をはるかに超えた、「懲役100年」とか「200年」の判決を喰らって気が狂ったようになる囚人の姿を見ていましたが、まさか自分がその当事者になるとは夢にも思いませんでした。

『全裸監督の修羅場学』(徳間書店)

 弁護士によればスタッフ15人の方は初犯であり、私の従犯であるから、どういう判決が出ても間違いなく執行猶予が付いて日本に帰れるだろう、ということです。

 一緒に地獄まで道連れにすることにならずに済んだ、というのがせめてもの救いでした。気落ちする私に弁護士は「アメリカはファイティングスピリッツの国だ。戦わずして負けを認める者はコテンパンにやられる。最後まで諦めるな、ファイト、ファイト」と励ましました。

「そうだ、ここで諦めたら生きて日本に戻れなくなる。なんとしてもここは戦って日本に帰ろう」と自らを鼓舞しましたが、しかし、日本での裁判の経験が悪い方に出ました。日本で起訴されたらほとんど間違いなく有罪になるのに、言葉も人種も違うこの国で裁判にかけられたら、どこに勝ち目があるというのだ、という諦めの気持ちが心を覆い、暗澹(あんたん)たる気持ちになったのです。

 ホノルルのヨットハーバーに行き、海を眺めながら、はるか日本を思っていると、このままこのハワイで朽ち果ててたまるか、という闘争心が湧き上がってきました。何としてでも、密かに日本に帰ってやろうと決心したのです。

 ハワイの総領事館に駐在している、警察庁から派遣されているエリートスタッフに、「私がここから日本に逃げ帰ったら、日本政府はどうするでしょう」と尋ねたところ、「日本人であるあなたを日本政府が入国拒否するいわれはどこにもありません」と明快な答えが返ってきました。

 よし、と覚悟が決まりました。いざとなったら太平洋を独りぼっちで行こう、と。