上京後、バーテン、英会話セットのセールスマン、テレビゲームリース業を経て「裏本の帝王」となるが全国指名手配となり逮捕……。Netflixオリジナルドラマ『全裸監督』シリーズの大ヒットで一躍時の人となった村西とおる氏の半生は波乱万丈に満ちている。
ここでは同氏が執筆した『全裸監督の修羅場学』(徳間書店)の一部を抜粋。幾多の困難に見舞われようとも、不屈の精神で返り咲いた男・村西とおるが経験した強烈な体験を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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過ぎ去ってしまえばすべて思い出になるから
そのご婦人は、齢の頃は60歳前後でいらっしゃいました。三十数年前のことです。AVメーカーを立ち上げたばかりで資金繰りに窮していました。知人の男が、ならばとスポンサーになるべくそのご婦人を紹介してくれたのです。
一流ホテルのラウンジでお会いしました。30メートル先からもわかるほどに全身に濃い香水をまぶし、身長は150センチに足らず、小柄ながら、デップリと太られていて、くびれのラインを消失した寸胴の体形の持ち主であられたのです。
ご婦人はテーブルの上に紙袋を「どうぞ」と差し出されました。中にはお願いしていた3000万円の札束がありました。「返済は1カ月後ですね」と確認され、手渡した手形をブランド物のバッグに投げ入れ、立ち去って行かれたのです。
それから1カ月後、手形の書き換えにご婦人の住む北陸の街へお伺いをいたしました。ご婦人はその街で亡き夫の後を継がれて自動車教習所、タクシー会社やパチンコ店などを経営なされておりました。
通されたのは1階がパチンコ店のビルの8階の最上階にあるご婦人の寝室でした。室内は壁からカーテン、ベッドのシーツまでピンクに統一されていました。
ご婦人が身に纏われているネグリジェまでも、です。
ご婦人はオロナミンCを4本出されました。そのうちの1本をご自分が飲み、あとの3本を私に飲めと申されました。1本、2本、と空けると急にゲップが出ました。
オロナミンCは立て続けに飲むと胸ヤケがするのです。ご婦人はジッとこちらを睨んでいます。最後の3本目を必死の思いで飲み干しました。
まだバイアグラのない時代です。