文春オンライン

「芝居なんかできなくてもいい」と言われて…70歳になった俳優・柴田恭兵が駆け出し時代に“悔し泣き”した理由

8月18日は柴田恭兵の誕生日

2021/08/18
note

 いまから40年前の1981年、当時、一橋大学の学生だった田中康夫の小説『なんとなく、クリスタル』が大ベストセラーとなった。作中にはファッションブランドなど、当時の東京の流行を反映したキーワードがちりばめられ、そこに付された多分に批評的な注釈も話題を呼ぶ。当然のごとく映画化もされ、これが映画デビューとなるかとうかずこ(現・かとうかず子)が主演した。また、俳優の柴田恭兵の歌う同名の楽曲もリリースされている。

70歳になった柴田恭兵

 筆者はてっきり、この曲は前出の映画の主題歌だとばかり思っていたのだが、作曲者の近田春夫が今年出版した自伝で、映画とはまったく関係がないと書いているのを読んで驚いた。同曲は近田が、柴田の歌う宝焼酎のCMソングを依頼されてつくったものだ。そのCMのキャッチコピーに「クリスタル」のフレーズが入っており、当時ベストセラーになっていた『なんとなく、クリスタル』が思い浮かんだ近田は、タイトルをそのまま取って、作詞も田中康夫本人に頼んだという(※1)。

ひたすらにおしゃれな世界を体現した

 こうしてできあがった同曲は、歌い出しからいきなり「レイニー・デイはグルーミー」とカタカナ交じりで、以後、最後までこの調子で続く。並みの歌い手では躊躇してしまいそうなところだが、柴田恭兵はそれを照れもなく、歌の世界に完全に入り込んで歌い切っている。

ADVERTISEMENT

 歌のなかで生活感のない、ひたすらにおしゃれな世界を体現した柴田恭兵は、同じ年に出演した山田太一脚本のドラマ『想い出づくり。』では、四畳半のアパートに住む、世の中に対し斜に構えた態度をとる旅行代理店の社員を演じた。対極にある世界いずれにも染まってみせながらも、俳優としての個性も十分にうかがわせる。このとき柴田は30歳。それから月日は流れ、きょう8月18日で70歳を迎えた。