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正式な競技大会への出場数は0回…武術家ブルース・リーが“試合”に興味を持たなかった芯の通った“理由”

『友よ、 水になれ——父ブルース・リーの哲学』より #2

note

人生は競争ではなく、共創

 水に目を向けたとき、そこに見えるのは周囲と競うことなく共創・共生している姿です。水は土に勝ちたいと思っていない。水はただ水である。土はただ土である。ときに水は川の土手を乗り越える。川の土手が水の流れを変えるときもある。中立や無の状態には競争がない。それは、比較や判断が存在しないからです。人生は競争ではありません。共創です。私はよく、人にこんな助言をします。競わなくてはならず、それが(いまのところ)あなたを駆り立てる様式であるなら、自分と戦うといい。自分を駆り立てる。自分を高める。自分を成長させる。競争には勝者と敗者の概念が付きまといますが、心を開いた中立状態で経験にひとつひとつ取り組み、その瞬間にしっかり存在することを選んだとき、そこに勝ち負けの入る余地はありません。目の前で展開していることと、自分がどう対応するかの選択があるだけです。人生という大きな絵に勝ち負けはないことを早く学べれば、競争という感覚を離れ、シンプルで活動的な状態により早く移行できるようになる。

一日の終わりにあなたが目を光らせるべき人は、あなた自身

 もちろん、人は年がら年じゅう何かで勝ったり負けたりします。その意味では、人が“よい”人生を送ったかどうかを外から測る方法はあるともいえるでしょう。でも、自分にとってよい人生だったかどうか、本当のところはあなたにしかわかりません。心と魂の内側にどのレベルの満足があるかは、あなたにしかわからない。精神と感情をどんな悪魔が長年苦しめてきたかはあなたしか知らない。なので、今生の光が永遠に消えるまで、競い合うことを減らし、学ぶべき教訓や、自分に可能な方向転換、自分に可能な成長にもっと取り組むことをお勧めします。勝利も敗北もつかのまのことにすぎません。川の水は海に着いたからと言って勝利のダンスを踊ったり止まったりはしない。そのまま流れつづけます。

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 一日の終わりにあなたが目を光らせるべき人は、あなた自身です。あなたはどんな人生を経験していて、いまいる場所で人生をもっとすばらしいものにするにはどうしたらいいのか。あなたが誰かの前に立ち、相手に勝ったり張り合ったりに血道を上げているとき、そんな比較は自分が興じている限られたゲームの中のものでしかないことを、どうか覚えていてください。