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正式な競技大会への出場数は0回…武術家ブルース・リーが“試合”に興味を持たなかった芯の通った“理由”

『友よ、 水になれ——父ブルース・リーの哲学』より #2

note

 私はあなたの期待に応えるためにこの世にいるわけではなく、あなたは私の期待に応えるためにこの世にいるわけではない……。物理的限界であれ、他の限界であれ、自分の行動すべてにたえず限界を設けていると、それがあなたの仕事と人生に波及する。限界など存在しない。停滞期があるだけなのだ。あなたはそこにとどまらず、そこを乗り越えていかなければいけない。

六つの病

 私たちがなぜいろいろな形で競争するのかを知りたければ、父が六つの病について書いています。それらはすべて、何が何でも勝ちたいという欲望から生まれるものです。この病が生じる条件はひとつ、競争に身を置いているということ。軋轢が起こったとたん、私たちがよく入り込むのがこの競争心です。そんな形で他者とつながっているときは、外からの評価を受けるため自分を相手から切り離し、本当の自分からも切り離してしまう。つまりそこには人間関係がなく、協力もなく、共創もない。勝者と敗者がいるだけです。その病をここに記します。

【勝利を求める欲望】

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 私は勝者でなければいけない。勝たないと敗者になる。私が勝てば、他のみんなが負け犬になる。

【技術的熟練に頼る欲望】

 私は自分の偉大さを示すために知恵に頼っている。自分の賢さをみんなに知ってもらえたら、人や人の気持ちなんてどうでもいい。

【学んできたことすべてを誇示する欲望】

 見てくれ。私はいろんなことを知っている。どんな事柄でもひと演説ぶつことができる。誰が何を言おうと関係ない。とくにそれが間抜けな話であるときは。

【敵を威圧する欲望】

 私には力がある。まわりから一目置かれてしかるべきだ。気をつけろ! お前の注意を引くために衝撃的で突拍子もないことをする必要があるなら、あっと驚かせてやる。

【受け身でいたいとする欲望】

 私は気さくな人柄です。私を嫌いな人はいないでしょう。私はとても控えめで優しい。どんなに私が好感の持てる人か知ってもらうためには、自分にとって大事なことも全部二の次にします。あなたのためだけにすべてを犠牲にする私を、あなたが好きにならないわけがないでしょう。