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日本の自衛隊がタリバンに学ぶべき「3つのポイント」とは

SNSが戦場になっていることに無自覚なままでは…

2021/08/23
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人類はSNSの情報の即時性と膨大さに抗いがたい

 今回のタリバン軍による認知領域の戦いは、あきらかに他国からの入れ知恵を感じさせ、“現代版メッケル”がいると思われるが、もしもそれが中国の指導によるものならば、この問題の深刻性はより高まる。少なくとも彼らはタリバンの成果から教訓を導き出し、日本や台湾に対する認知領域の戦いに磨きをかけてくることは間違いない。

 国防総省の技術研究プロジェクト「NextTec」の責任者を務めたピーター・シンガーが指摘するように、ソーシャルメディアの本質そのものが争いを加速するようになっていることも問題だ。シンガーは、人類そのものがSNSを使った認知領域の戦いに脆弱だと指摘する。

 シンガーによれば、人類を進化させてきた好奇心、親近感、帰属願望こそが、フェイクニュースへの脆弱性の窓になっているという。年齢に関係なく、人類はSNSの情報の即時性と膨大さに抗いがたいというのがシンガーの指摘である。

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 人類にとって、もっとも脆弱であるのがSNSを通じた認知領域における戦いであるならば、日本政府としても、防衛省・自衛隊としても認知領域における戦いのコンセプト、それにもとづくドクトリンの策定が急がれる。手段についても公式Twitterだけに頼るのではなく、多様化や高度化が必要だ。キャリア官僚がTwitter運用を会議で検討するのは資質の浪費だ。

人的資源への投資こそ最重要

 3つめは、戦争における作戦術の重要性を改めて示したことだ。20年前に壊滅寸前にまで追い込まれたタリバンでさえ、作戦術を使いこなせば、世界最強の米軍と装備の質でも量でも優勢なアフガニスタン軍を打倒し、首都を含めた国土の9割を占領することができるのである。

タリバンの兵士たち ©AFLO

 しかし、米国や英国をはじめとするNATO諸国やオーストラリアでは、1980年代から作戦術の研究・導入が進んでいるのに、それから40年近くたった今でも自衛隊への導入はまだ途上である。軍での構想開発を支える作戦術に関する学術研究の蓄積もほとんどない。こうした知的分野における投資を急務である。少なくとも廃刊にしてしまった陸自の部内論文誌『陸戦研究』はそうした知的涵養の場として復活させるべきだ。

 イージスアショアやオスプレイ等の大型装備への投資もけっこうだが、それよりも作戦術を理解した知的軍人を増やすという、人的資源への投資こそ最重要だということをタリバン軍の軍事的成功は示している。現にアフガニスタン治安部隊は、タリバン軍が持たない航空戦力も最新の個人装備も持っていたが、すでに述べたように作戦術によって無力化されてしまった。

 国際政治アナリストの菅原出氏が「タリバン指導部は、戦闘作戦を進めながらも、「国家承認を得て国際的に正当性のある政権をつくる」という目標を見失わずに事を進めてきたように見える」と評しているように、タリバン指導部は政治目的とは何かを理解し、それに資する為にすべての戦術を調整し、作戦として展開してきた。

 タリバンの人権意識に学ぶものはない。

 しかし、彼らの圧倒的な不利を跳ね返しての軍事的勝利を生み出した方程式は、多くの学びを提供する。少なくとも、今のコロナ対策やそれをめぐる論争、そして、将来の戦争で日本が政治的及び戦略的勝利を収めるためにも一定の教訓を与えるのではないか。

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