タリバンが短期間で首都を制圧できた背景には、高度な軍事作戦を展開する「作戦術」があったとベンジャミン・ジェンセン(米海兵隊の教育機関・海兵上級戦闘学校教授)は指摘している。このことは、日本が学ぶべき「3つのポイント」を示唆している。

ハードウェアの量では絶対に勝てない相手と向き合う

 ひとつは、タリバンが高度な知性を発揮して、物量を跳ね返してとうとう戦争に勝利したことだ。

 反知性主義の極北という印象のタリバンが戦略目標とは何かを自らに問い、導き出し、数多の戦術がその戦略目標に繋がるように複数の作戦を編み出して、目標達成したという軍事的には高い知性を持つ集団に変貌していたことである。

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政権掌握後、首都カブールで記者会見するタリバンのスポークスマン ©AFLO

 タリバンは、ゲリラ戦でも、ガニ政権の自壊でも、バイデン政権の戦略的失敗でもなく、自らの知力によって勝利したということになるからだ。

 しかも見かけ上ではあっても3倍の兵力と米国製の最新兵器で武装したガニ政権軍、そしてそれを支援する米軍を相手取って、わずかの期間で成功したのだから、この衝撃は大きい。ベトナム戦争ですら、北ベトナム軍は米軍の完全撤退後に数年かけてサイゴンを陥落させたことを考えれば、軍事的偉業であることは間違いない。

 つまり軍事はハードウェアだけで決まるものではなく、ソフトウェアこそが重要なのだ。ハードウェアで大きく劣るタリバンが、ジェンセンが指摘するように偶然ではない勝利を得たのであれば、それはソフトウェアの勝利だ。

 これは日本にとっても貴重な教訓だ。日本も、軍事における知性を錬磨し、認知領域における戦いを使いこなせば、中国軍の侵略をはじきかえすことも可能だと示唆しているからだ。中国というハードウェアの量では絶対に勝てない相手と向き合う日本にとって、防衛装備品というハードウェアばかりでなく、人間のソフトウェアの進化と深化は必須だ。

SNSの登場によって陸海空サイバー宇宙に次ぐ新たな“戦場”に

 ふたつめは、前者に関連するが、現代戦における「認知領域における戦い」の重要性がタリバン軍の軍事的成功によって再確認されたことだ。

 この認知領域とは、端的に説明すれば人間の心理であり、SNSの登場によって陸海空サイバー宇宙に次ぐ新たな“戦場”となったと最新の軍事研究で評価されているものである。

 防衛研究所の米欧ロシア研究室長・飯田将史氏は、認知領域を「新興の作戦領域であり、感知、理解、信念、価値観といった意識が構成するバーチャルな空間」とする海軍工程大学の李大鵬の定義を紹介している。

 ジェンセンの解説を見ればわかるように、タリバン軍はSNSを現実の暗殺作戦や敵の降伏や外交術と組み合わせることによって、アフガニスタン治安部隊の“心”を折った。これこそが認知領域の戦いだ。

 ウクライナにおいてロシアによるフェイクニュースがネットを通じて多く流され、いわゆるハイブリッド戦争の一戦場となり、結果的にウクライナは抵抗らしい抵抗もできないままに東部地域を切り取られてしまった。