2021年8月15日、タリバンは約20年ぶりに首都カブールを占領して、パンジシールを除くほぼ全土を平定することに成功した。タリバンが州都を最初に陥落させたのは8月6日だった。また、タリバンの本格的な攻勢開始は5月4日だったので、そこを起点にすれば3カ月で「勝利」したことになる。戦史に例のない電光石火の電撃戦だった。

 まるで戦国時代における武田家の甲州崩れのようなあっけない滅亡だが、最近までアフガニスタンで治安維持部隊の教育訓練任務に従事していた海兵隊の研究者が、タリバン軍の巧みな“作戦術”が背景にあったと指摘している。

戦史に傑出するタリバン軍の電撃戦

 もちろん、タリバンが戦争すべてに勝利したかは予断を許さない。国造りと戦争は異なるからだ。

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 それでも、この速度の異例さは、米国のインテリジェンス・コミュニティの予想を裏切り続けたことからも明らかだ。米情報機関は、6月時点では、タリバンがカブールを制圧するのに「6カ月から1年かかる」と見積もっていた。8月10日には「30~90日」へと短縮されたが、5日後にタリバン指導部は大統領府に“入城”したのだから、いずれも非常に楽観的な見込みだったとわかる。

大統領府を占拠したタリバンのメンバーたち ©AFLO

 このタリバン軍の勝利の要諦について、アフガニスタン政府軍の士気の低さや腐敗ばかりが日本では強調されるきらいがあるが、注目すべきはタリバンの軍事的知性の高さに基づく「作戦術(Operational Art)」だ。

 米海兵隊の教育機関・海兵上級戦闘学校教授のベンジャミン・ジェンセンは、カブール占領の当日、2021年8月15日に米シンクタンク、アトランティック・カウンシルに「タリバンはいかにして勝利したのか? 軍事的勝利のための "作戦術 "の内実(How the Taliban did it: Inside the ‘operational art’ of its military victory)」と題する小論を発表した。

 結論から述べれば、ジェンセンは、タリバン軍は高度な軍事的知性を保有しており、政治目標を実現するための軍事的手段と非軍事的手段を統合することに成功しており、もはや軍事集団としては過去のタリバンの比ではないと評価している。農村部での待ち伏せや仕掛け爆弾を駆使していたゲリラ組織ではなく、SNSによる心理戦にすら熟練した8万人もの戦闘員を管理する複雑な軍事組織に進化したというのだ。

 タリバン軍は、現地の部族長老の協力を取り付けたり、彼らのメッセージなどをSNSによる世論操作で使ったり、現地司令官が戦闘の主導権をとれるように委任戦術――目的を指示し、その実現する方法は現場司令官に任せる方法――を駆使している、高度な軍事組織になったというのがジェンセンの見立てだ。しかもタリバン軍は前線部隊が軍事的な成功を収めると、すかさず後方からオートバイの機動部隊が進撃し、さらなる進撃を強化する巧みさまでもっているとする。