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 特にジェンセンは、米軍などが使いこなしている「作戦術」をタリバンが完璧にマスターしていると強調する。この作戦術とは、戦争において実現すべき政治目的や戦略目標と戦場における戦術との整合性をもたらす営為である。

 そして、作戦術とは、各戦場での戦闘に連戦連勝しても戦略レベルでの勝利に一向に繋がらなかった――まるで今の日本のコロナ対策にも似ているが――ベトナム戦争の苦い教訓から米軍が導入した概念でもある。自衛隊では最近ようやく試行錯誤で導入が始まったところだ。

タリバンによる4つの作戦

 ジェンセンは、その上でタリバンは4つの「望ましい状況を作り出すための努力の方向性(lines of effort)」を行ったとする。これは作戦術の発想に基づくものである。

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 最初の作戦が、アフガニスタン軍の孤立化である。この孤立化とは敵の支持基盤を物理的にも心理的にも遮断し、機動性を奪うことである。タリバンは、まず18カ月以上もかけてアフガニスタン治安部隊の連絡線を寸断した。その結果、食糧、水、弾薬が手に入らなくなった各地の治安部隊は士気が低下した。

カブールで哨戒するタリバンの兵士たち ©AFLO

 しかも興味深いのは、補給線が混乱した結果、空輸が増大したことで空軍の負担が重くなり、整備上の問題が多発し、対空砲火よりも多くの政府軍の航空機を無力化させたという。

 第2の作戦が、いわゆる認知領域の戦い、俗な言い方をすればプロパガンダ戦である。アフガニスタンの人口の70%以上が携帯電話を使っている「地の利」を活かして、タリバンは孤立させた各地の治安部隊に対し、SNSを通じて兵士自身やその家族の安全を脅迫する画像を流布した。しかも驚くべきことにタリバンは偽アカウントやBotまで駆使して、それを拡散するというロシアがウクライナなどで成功させた情報作戦を行ったのだ。

 タリバンは、その上で、部族の長老たちのメッセージや既に降伏した部隊や鹵獲した装備の映像を追加していった。これでは治安部隊の士気が保てるはずがない。

 第3の作戦は暗殺作戦である。タリバンは2年間もかけて、市民社会のリーダーを秘密裏に暗殺し、しかもタリバンの犯行であると名乗らないことで、ガニ政権への信頼を貶めた。満足な対空兵器のないタリバンは、パイロットを地上で暗殺することで純粋な能力を奪い、そして同僚の士気を低下させてアフガニスタン空軍を弱体化させた。

 第4の作戦は、外交攻勢だ。米国やアフガニスタン政府の失敗を後目に、外交と軍事作戦の統合に成功した。タリバンはトランプ政権時に米国との直接交渉に持ち込み、和平協定を締結することで、ガニ政権の政治的権威を破砕したのである。さらに、米国はタリバンと交渉するたびにタリバンを攻撃する能力を制限していったというオマケまでついた。

 このようにジェンセンは、タリバンが恐るべき高度な軍事作戦を展開し、作戦術の本家――発祥はロシアではあるが――である米国が作り上げたアフガニスタン政府軍を、タリバンは自家薬籠中のものとした作戦術で圧倒したと指摘する。すなわち米国は軍事における知性で敗北したのである。