精神保健福祉士・社会福祉士としてさまざまな依存症治療に取り組む斉藤章佳氏によると、盗撮を行う人は、どこにでもいるような普通の男性が多く、彼らのなかには結婚している人もいれば、普段は家事や子育てにも積極的に参加している良き夫、父親も数多いという。
自身の夫が「盗撮」に手を染めてしまった……。そのとき、妻はいったいどんな思いを抱くのだろうか。ここでは斉藤氏の著書『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)の一部を抜粋し、加害者家族の苦しみを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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「盗撮さえしなければいい人なのに」
夫が盗撮などの性犯罪加害者になった妻の苦しみは、父親や母親のそれとは大きく異なります。
ある日突然、夫が性犯罪で逮捕された妻たちの胸には、「まさかこの人が」という思いが去来します。しかし、だからといって即座に離婚するか、というとそうでもありません。そもそも「妻の会」で、参加者の女性の大半は夫との婚姻関係を継続しています。
参加者の女性の多くが「夫は盗撮さえしなければ本当にいい人なんです」と口にします普段は真面目に働く従順な労働者。家事も子育ても積極的にこなすイクメン男性。彼女たちにとって夫は盗撮加害者にならなければ、非の打ちどころのない存在なのです。
また、子どもが小さい場合は特に「子どもにとっては、いいパパ。それを私の一存で子どもたちから奪って良いのだろうか」という葛藤に悩まされます。そのため「逮捕、即離婚」とはならないケースが非常に多いのです。
「夫の性欲は妻が受け止めるべき」という男尊女卑的な価値観
盗撮加害者の初診時の同伴者は、521人のうち3割以上が妻です。妻が夫を治療につなげようと必死に調べて、「なんとかして盗撮をやめてもらいたい」とクリニックを訪れるのです。
しかし「性犯罪者の妻」という立場は、世間からさまざまな批判や疑念を向けられます。もっとも多いのが「妻としてケアが行き届いてなかったんじゃないか」という視点です。これは夫の両親や、時には実の親からも向けられます。実際に、義理の母親から「あなたがしっかり管理していないから、(うちの息子は)そういう事件を起こすんじゃないの」と責められて、ひどく傷ついた参加者もいました。
さらに警察の取り調べでは、加害者の妻も事情聴取されることがありますが、その際に警察官から夫婦生活の有無まで聞かれることがあります。そこでは「セックスレスによって夫が問題行動に走ったのでは?」という、「性欲原因論」に基づく誤ったストーリーが仕立て上げられているのです。
そもそも日本人カップルの半数がセックスレスといわれる現代、夫婦生活がないのは珍しいことではありません。セックスレスと盗撮に因果関係を見いだそうとする議論は荒唐無稽です。日本社会には、前提として「夫の性欲は妻が受け止めるべき」という男尊女卑的な価値観がいまだにはびこっています。このような男性の性的欲動に甘い社会なのです。