「男の性欲に甘い社会」作家のアルテイシアさんとの対談で
以前、『ウートピ』というウェブメディアで、作家のアルテイシアさんと対談をしました。以下にその一部を引用します。
斉藤 (前略)「男の性欲に甘い社会」、その縮図とも言える現場に立ち会ったことが何度もあります。痴漢加害者の裁判で、被告人の妻が情状証人として法廷に立っていて、ある検察官が妻に、事件当初の夫婦の性生活について尋ねる場面があったんです。事件とはあまり関係のないこととして、裁判官も弁護人も質問を止めると思ったんです。でも実際には誰も止めることなく、妻は「夫婦生活はありませんでした」と答えざるを得なかった。
アルテイシア (中略)「男には制御できない性欲があるんだから、女はそれを満足させなければいけない」という思考ですよね。
斉藤 この質問には「夫の性欲を妻が受け入れなかったことが原因で、夫は痴漢に及んだのではないか」というバイアスが掛かっているんです。おそらく質問した検察官も無自覚だったと思います。だけどそんな仮説はまったくの無根拠ですし、セックスレスが影響して性犯罪が起こるなら、今の日本はそこらじゅうで性犯罪が起こっていますよ。
(ウートピ「『夫の痴漢は妻の責任』? 男性の性欲に甘い社会【アルテイシア×斉藤章佳】」より)
アルテイシアさんは、「男の性欲は女がケアすべき」という価値観が刷り込まれたこの社会を、漫画家の瀧波ユカリさんの言葉を借りて「ちんちんよしよし社会」と呼んでいます。なんとも言い得て妙だと感じると同時に、首がちぎれるほどうなずきました。
妻の妊娠と夫の性犯罪は無関係
話を戻すと、加害者の妻たちは被害者と同じ女性であることから、夫の犯した行動への怒りや、「なぜ盗撮なんてするのだろう?」と夫の行動が理解できない苦悩も、参加者からよく聞かれることです。夫が逮捕されたばかりのときは、妻も「盗撮=性欲のはけ口」と考えていることが多いので、「浮気や風俗だったらまだよかったのに!」と口にする人が少なくありません。
また妻の会には、妊娠中の女性もよく参加しています。つまり夫が妻の妊娠中に事件を起こしたというわけです。妻にとって、これから一緒に家族を築いていこうとする矢先に夫が性犯罪で逮捕されるというストレスは、すさまじいものです。なかには、一人目の妊娠中に夫が事件を起こし、クリニックで再発防止プログラムを受講したものの、二人目を妊娠中に再犯してしまった……という悲惨なケースもありました。このときも、妻は「妊娠中に夫の性欲を受け止めなかったから、盗撮に走ったんだ」という社会からの視線に苦しみました。
妻の妊娠と夫の性犯罪には何の関係もありません。そもそも性犯罪を性欲の問題に矮小化して、「男の性欲はコントロールできないから仕方がない」という話にすり替えるのが間違いなのは、何度も繰り返してきたとおりです。そのことでもっとも得をするのは、盗撮加害者本人であり、盗撮に限らず性犯罪をなかったことにするこの社会なのです。