声を上げる者は敵視される
ユジク阿佐ヶ谷は、同人系漫画誌を発行している出版社ふゅーじょんぷろだくとの代表取締役を務める才谷遼氏が、2015年4月に開館した映画館である。
才谷氏は、1998年11月にラピュタ阿佐ヶ谷を開館。当初はアニメーションの専門上映館だったが、現在はおもに日本映画の旧作を上映する名画座として、映画ファンに広く支持されている。自身監督として『セシウムと少女』(2015年)『ニッポニアニッポン フクシマ狂詩曲(ラプソディ)』(2019年)を発表するなど、精力的に活動をつづける才谷氏だが、同時に彼の周囲では不穏な話が絶えなかった。
2004年には、ふゅーじょんぷろだくとを退職後、他の出版社に入社することが決まっていた女性社員を無理に引き留め、2社掛け持ちの長時間労働をせざるをえない状況に追い込んだ。掛け持ちの事実を知ると才谷氏は4時間にわたって女性社員を罵倒、その直後、彼女はみずから命を絶った。遺族は才谷氏から誠実な対応が得られなかったとして慰謝料を求める裁判を起こし、その結果、女性社員は過労自殺であったことが認定された。
2006年には、ラピュタ阿佐ヶ谷の女性従業員に対する暴行事件が発生。これを機に従業員たちが映演労連フリーユニオン・ラピュタ支部を結成し、労働審判を申し立てたが、審判や労働委員会の場でも才谷氏は自身の暴力行為や不当労働行為について開き直るかのような発言を繰り返し、2014年1月に賃金の一方的な減額をめぐって和解が成立まで、従業員たちは8年におよぶ争議を余儀なくされた。
才谷氏はいまなお、こうした一連の出来事や外部からの批判をすべて「誹謗中傷」と受け止めているという。
「自分のやり方についていけない者、それによって去っていく者は才谷にとっては全員敵なんです。私も入社研修のときからそう見られていたようで、退職当時は才谷とはほとんど口もきかない関係になっていました」(Aさん)