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EUとの投資協定をめぐるつまづき

 また最近の例として、EUの投資協定をめぐる動きをあげておこう。2020年12月、EUの欧州委員会は中国と市場開放や公正な競争環境の確保など、投資環境の整備を目的とする包括的投資協定(CAI)に原則合意したと発表した。これは中国にもっと投資したいとするドイツの産業界などが強く求めたものだが、実際に協定の内容が明らかになってみると、中国は大して規制を緩めていないことが判明した。つまり期待したほどのメリットのないものだったのだ。それでも、署名延期を求めるアメリカを無視して、協定の批准を進めようとしていたのである。

 ところが欧州議会は2021年1月、ウイグルでの強制労働や香港国家安全維持法など中国における深刻な人権侵害に具体的な行動をとらなかったことは「人権を重視するEUの信頼性をおとしめかねない」と非難して、協定を問題視する決議を採択した。また3月にはEU、アメリカ、イギリス、カナダがウイグル族への人権侵害、強制労働などに対して、ウイグル自治区の統治責任者である中国高官や、ウイグルに駐屯する準軍事組織、生産建設兵団の公安局などに制裁を科した。こうしたEUの動きは天安門事件以来のことだった。

 それに対し中国が、欧州議会の議員などに中国への入国を禁じる報復制裁をすると、5月、欧州議会は報復制裁が解除されない限り協定に関する審議に一切応じない、と決議した。

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 このような行為が習近平を「つまずかせる」のである。

写真はイメージです ©iStock.com

共産党内部からのリークや東欧諸国からの反発も

 習近平が本格的にウイグルで民族弾圧を強化したときのことを思い出してほしい。あのとき、ウイグルに関する機密文書が西側のメディアに大量にリークされ、それによって中国国外でもその実態が広く知られることとなった。これが何を意味するかといえば、現地の共産党の幹部たちのなかに「習近平は危険な狂信者である」と認識している人々が存在するということだ。これは習近平のウイグル統治がうまくいっていないことを明るみに出すという、彼らの習近平に対する抵抗だった。

 同様に、欧州議会が北京との投資協定の合意を拒否すれば、習近平にとって頬を平手打ちされたようなことになる。習近平が「素晴らしい成功だ」と世間に広く提示した投資協定が潰れることは、まさに習近平自身の失敗であり、彼はメンツを潰されたことになる。これが「習近平をつまずかせる」ということなのだ。

 ヨーロッパでは、バルト海の国々や東欧諸国も、習近平を苛立たせるような動きを見せている。スロベニアやクロアチア、チェコは中国の企業がかかわっている原発、高速道路、鉄道網など、インフラ設備の政府入札を中止したし、ルーマニア、リトアニアでは中国企業を幅広い分野にわたって政府調達から排除している。