小国が中国のメンツを潰すサプライズ
また中国は2012年から旧共産圏の16カ国に呼びかけ、「16プラス1」(プラス1はもちろん中国だ)というグループを組織してきたが、2021年2月にギリシャを加えた「17プラス1」として習近平が主催したヴァーチャル会合では、中国が各国の首相の参加を要求したのに対し、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ブルガリア、スロベニアの6カ国はわざわざ格下の閣僚級を参加させた。中国外務省の報道官は、会合は「首脳らとともに成功裏に開催された」とコメントしたが、5月になると、リトアニアがこのグループからの脱退を表明したのである。
ここで重要なのは、この戦略では、中国側が「小国」と認定しているような国が、中国側が持ちかけた提案や、すでに成功したと喧伝したものを拒絶したり拒否したりすることによって「メンツを潰す」というサプライズが有効だということだ。
日本やベトナムはこれができる。韓国も潜在的にはできるはずだが、THAAD(高高度防衛ミサイル)システムの設置をめぐって、土地を提供したロッテグループが中国国内から排除されたことをきっかけに、もう中国への抵抗ができなくなっている。彼らは中国の「忠犬」状態だ。
あまり注目されていないが、意外に良い動きをしているのがインドネシアだ。近年続いているEEZ海域への中国海警局の艦船の侵入をうけて、2020年、アパッチヘリコプターなどによって構成される即応部隊を配備することを決定している。
ここでも「同盟の戦略」が効いてくる。中国にとっての「小国」が、それぞれに「つまずき戦術」を駆使することで、習近平の独裁体制の揺れをどんどん大きくするのだ。
「微笑み戦術」はうわべだけ
さまざまな歴史の教訓が示しているように、習近平の独裁体制は必ず破綻するだろう。そして習近平は「ラストエンペラー」(最後の皇帝)となる。ただ問題はそれが起きるのが、5年後か8年後か、あるいは50年後か80年後かはわからないということだ。
これも逆説的だが、「同盟の戦略」、「つまずき戦術」が非常に効果を上げた場合、中国は「チャイナ4.0(編集部注:中国の他国に対する政治姿勢を表すエドワード・ルトワック氏の造語。さまざまな国に対する強硬な外交体制を表す)」をとりやめ、南シナ海への野心などは捨てて、よりマイルドで協調的な「チャイナ5.0」を採用するかもしれない。その場合、習王朝は延命されることになる。しかし、習近平の性格、中国の戦略下手から考えると、そうした中国にとって有利な政策転換が行われる可能性は、やはりきわめて低いだろう。
2021年5月、習近平は「謙虚で、信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージを作れ」と語った。一部の報道では、「戦狼外交」からの方針転換ではないかという見方も出されたが、そうではないだろう。これはあくまでイメージ上の「微笑み戦術」に過ぎず、強硬路線は維持されている。それは翌6月の全人代で、外国からの制裁に報復する「反外国制裁法」が成立、即日施行されたことからも明らかだ。
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