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──ご自分の言葉で語れば語るほど、作者の意図と離れてしまうかもしれないという恐怖感や不安はありませんか?

けんご めちゃめちゃあります。なんなら毎回不安しかないです。綾崎隼さんの『死にたがりの君に贈る物語』で「推し」という言葉を使った時も、本当にこの言葉を出してよかったのか、万一、綾崎さんが見て「これ違うでしょ」って不快に思われたらどうしようと、ずっと不安でした。

 脚本づくりには時間がかかるのは、作品をとにかく読み込んで、作家さんの思いから外れないようにかなり神経を使って脚本に落とし込む、という理由も大きいと思います。

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──映像も凝っていますよね。ミステリー小説ではミステリアスな雰囲気を、青春小説や恋愛小説では爽やかなイメージを演出されているのもすごいなと、毎回感心して拝聴しています。動画編集や撮影にはどれくらいの時間をかけておられるのですか?

けんご 撮影、編集に関しては、1動画だいたい40分から1時間くらいでできてしまうので、そんなに大変ではないんですよ。

 筒井康隆さんの『残像に口紅を』を紹介した時はちょうど髪の毛が長かったので、“あ”から言葉が消えていくというストーリーになぞらえて、「僕はじゃあ“目”を消してやろう」と意図して髪の毛で目を隠したんですけど、誰にも分かってもらえなくて……。コメント欄で「髪切れ」と言われて、そりゃそうだよなと思いました。なので演出に関してはまだまだ勉強中です(笑)。

動画がきっかけで本が読まれるとうれしい

──でもけんごさんの体を張った演出効果で、筒井康隆さんの『残像に口紅を』の紹介動画は690万再生を超え、「いいね」の数も59万(8月27日現在)を超えるなど、大きな反響を呼んでいます。大幅な増刷もかかり、もはや社会現象といってもいい状況です。

『残像に口紅を』を紹介したけんごさんの動画

けんご かなり前に読んだ本をたまたま本棚の奥で見つけて、紹介しただけなので、正直僕も驚いています。30年以上前の作品とは思えない斬新さを表現したくて、あんなふうにキャッチーに紹介しましたが、この作品って実はかなり難しいと思うんです。もしあまりにも難解だと思われたらどうしようか、という心配もありましたが、出版社や書店員の方から「これまで読まなかった若年層が作品を読んでくれた」と言われたり、僕の紹介動画の直後に重版がかかったなどと報告をいただいたりすると、少しはお役に立てているのかなと自信につながります。

『残像に口紅を』を手にするけんごさん

 あと、インスタで中学生の保護者の方から「うちの子が最近急に本を読むようになり、何でだろうと思ったらけんごさんの影響でした。ありがとうございます」というDMをいただくこともすごく多くて、小説が苦手な方や小説をあまり読まない方に確実に届いているんだなと思えてめちゃめちゃ嬉しいです。

 ただ、最近多くの書店さんで「けんごコーナー」を設けていただいているのは、正直恥ずかしいです。帯でもいろいろご紹介いただいて、ありがたいけど恥ずかしくて書店に行きづらいという贅沢な悩みを抱えています。

(取材・構成:相澤洋美、撮影:文藝春秋/杉山秀樹)

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