TikTokで紹介した小説が次々とヒットする「社会現象」を起こす動画クリエイターが現れた。23歳の社会人1年目の男性、「けんご@小説紹介」(以下、けんご)さんだ。けんごさんが紹介した実験的小説『残像に口紅を』(筒井康隆)は、amazonの日本文学のランキングで1位を獲得し計8万5千部の緊急重版、また、安楽死が合法となった日本を舞台にした『レゾンデートルの祈り』(楪一志)も5刷を重ねた。去年の11月にTikTokを始めたばかりという「日本でいちばん本を売るTikTokクリエイター」の素顔とは。(全2回の1回目。後編を読む)
大学生になり「コスパよく暇を潰したいなと思って…」
──いまや出版界で引っ張りだこのけんごさんですが、小説を読むようになったのは大学生になってからだそうですね。それまでは小説を読む習慣がまったくなかったとお聞きして、驚きました。
「けんご(けんご@小説紹介)」さん(以下、けんご) 僕は小学校からずっと野球をやっていたんですけど、小説は難しくて自分には読めないと思っていたので、多くても月に1冊読むかどうかというくらいでした。
僕の8歳上の兄は実業団の選手として今も野球を続けているので、大学に入るまでは、自分も兄のように実業団に入れたらいいなと夢を見ていました。
でもスポーツ推薦で大学に入ってみたら、チームメイトはみな全国の強豪校でキャプテンをしていたような人たちばかりで、ある時「自分にはこれ以上は無理だな」と悟ってしまったんです。
今の外見からはかけ離れていますが、高校までは僕もずっと坊主頭でした。甲子園の出場経験が何度もある高校で、残念ながら僕の代では行けなかったんですが、とにかく練習が厳しくて……。大学の野球部の練習も厳しかったんですが、高校までの部活と比べたらかなり時間ができたので、コスパよく暇を潰したいなと思って本を読み始めました。
──最初に読んだ小説は東野圭吾さんの『白夜行』とお聞きしました。なぜ『白夜行』を選ばれたのですか。
けんご まったく覚えていないんですけど、自分で買った記憶がないので、誰かに借りたような気がします。文庫版で860ページもあって、見ただけで億劫になる人もいるだろうと思えるボリュームに、最初は圧倒されました。でも、「どうせ読むならこれくらい分厚い本を読んでやろう」とイキって読み始めたような気がします。
読んでみたら、内容の面白さはもちろん、「自分がこんなに分厚い本を読めた」という達成感、優越感みたいなものが大きくて、そこから小説にハマって、今はだいたい月に20冊くらい読んでいます。
SNS未経験の大学生が動画で小説紹介をはじめたわけ
──Instagramのプロフィールに「社会人1年目」と書かれています。「脚本を書いたり、動画を編集したりする仕事」とお聞きしましたが、小説紹介クリエイターがお仕事なんですか?
けんご 本職は別にあって、小説紹介はお金のためにしているわけではありません。自分でこんなことを言うのも何ですが、どうやら僕は社会不適合者なのかもしれなくて、就活でも大失敗しているんです。
SNSもまったくしたことがなかったんですけど、僕の周りで小説を読んでいる人が誰もいなくて、作品のよさを語れる人がほしかったので、去年の11月に大学の野球部を引退して本格的に時間ができてからSNSをはじめました。