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「若い子には小説が本屋で売っていると分かっていない人もいるけど…」 動画クリエイターけんごさんが、小説紹介を“ビジネス”にしない理由

けんご@小説紹介さんインタビュー#2

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 TikTokで紹介した小説が次々とヒットする「社会現象」を起こす動画クリエイターが現れた。23歳の社会人1年目の男性、「けんご@小説紹介」(以下、けんご)さんだ。けんごさんが紹介した実験的小説『残像に口紅を』(筒井康隆)は、amazonの日本文学のランキングで1位を獲得し計8万5千部の緊急重版、また、安楽死が合法となった日本を舞台にした『レゾンデートルの祈り』(楪一志)も5刷を重ねた。去年の11月にTikTokを始めたばかりという「日本でいちばん本を売るTikTokクリエイター」の素顔とは。(全2回の2回目。1回目を読む)

「本の置き場がなくなる日が来るかもしれませんが、本に囲まれているのは楽しい」と笑うけんごさん

小説は百人百様なのがおもしろい

──けんごさんは動画で小説紹介をされていますが、小説のどんなところがお好きですか? 

「けんご(けんご@小説紹介)」さん(以下、けんご) 小説には、視覚や聴覚という縛りがないので、100人が同じ小説を読んだとしても登場人物の表情や声がそれぞれによって違うところに面白さを感じます。映画や漫画、テレビ、ゲームは視覚や聴覚で楽しむものなので、想像する楽しみは逆に少ないですよね。

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 映画も好きなんですが、技術や映像の古さが気になってストーリーに入り込めない作品もあったりするので、僕はあまり昔の作品が得意ではないんです。それに対し、小説はいつの時代の作品を読んでも、今の時代に合わせて楽しめる気がします。たとえば、最近紹介した筒井康隆さんの『残像に口紅を』は、僕が生まれる前に書かれた作品ですが、僕より若い子たちも「面白い」と言って読んでくれているのがすごいなと思います。

──文章にしかない面白さというのは想像の余地だと。

けんご 映像も人によって受け取り方の違いはあると思いますが、文章はそれよりはるかに自由に独創性や想像力を発揮できる面白さがあると思います。

 そして、登場人物のイメージを語り合ったり、自分ならどうするということを想像したりする相手が僕にはいなかったので、一人でも関心を持ってくれる人を増やして、みんなでいろいろな話をしたいなと思って発信を続けています。

「僕にとって」面白いと思った作品を紹介したい

──けんごさんが目指しているのは「作品を重版させること」だと伺いました。作品の知名度や認知度を上げたり、共感度を深めたりするマーケティング手法を得意とする代理店や企業もありますが、けんごさんが小説紹介を「ビジネス」にしないのはなぜですか。

 

けんご お金が大事なのもわかっていますし、PR案件として作品紹介をする動画があってもいいと思っています。ただ、僕自身は、「素直に純粋な目でその作品を読んでほしい」という願いがあるので、作品と作家さんに迷惑をかけないためにも、TikTokではPR案件はやらないと決めています。

──小説紹介をする作品はどういう基準で選ばれているのですか?

けんご 純粋に僕が面白いと思うかどうか、だけです。