《2009年12月4日(金) 大学病院に行くと、K先生は「今日手術しちゃいますか?」急速な展開に驚いた。》
「手術は今晩行います。それまでに入院手続きをして下さい」
と言われた私たちは、病院の最上階にあるレストランに行きました。これから入院するのなら、当分おいしいものが食べられなくなるだろうと考えたからです。
何が起こるかわからない状態なんだな
何を食べたかは忘れてしまいましたが、たぶん私はいっぱい食べたはずです。旦那は「あなたみたいに訳の分からないわがままな患者は、家に帰すと帰ってこない可能性がある。だから、お医者さんは、いますぐ拘束して手術しちゃおうと思っているんだよ」と言いました。
夜の病院はシーンとしていました。外来の診療時間が終わったからです。手術室の前にある長椅子には、私と旦那だけが、ぽつんと座っていました。
書類を読んだりサインをしたりして入院手続きを終えた旦那は、一旦家に帰り、パジャマ、オムツ、くし、歯ブラシや歯磨きなど入院道具を揃えてすべてに名前を書くなど、せわしなく動いてくれてから病院に戻っていました。
やがて看護師さんが車椅子を持って来てくれました。私は歩けるんだから必要ないのに、と思いましたが、それほど何が起こるかわからない状態なんだな、と思い直しました。
車椅子で移動する時、顔を知っているお医者様がちらほら見えました。それからガウンに着替えて手術台に寝かされました。
たぶん、死んでから慌てるんでしょう。
麻酔薬を注射され、眠りに落ちる直前に旦那があらわれ、耳元で言いました。
「何か言っておきたいことはある?」
へ? なんだろうなと思い「お腹がすいた」と答えました。
「ほ、ほかには!」
ほかに?
最後には、私は「歯が痛い」と言い残したそうです。呆然とたたずむ旦那。
旦那は「愛してるわ、子供たちをお願い」みたいなロマンチックかつドラマチックな会話を期待していたようですが、意識を失う寸前の私は「歯が痛い」とは。
ずっとあとになってから、旦那にこの時のことで散々文句を言われました。
「今生の別れになる可能性もあったのに、『子供をお願いね』とか『今までありがとう、愛してるわ』とか、そういうドラマチックかつ感動的な会話が全然なくて『お腹がすいた』と『歯が痛い』なんてあんまりじゃない」
だって、まだ死んでないし。
手術をすることは決めたけど、死ぬつもりはないし、死ぬかもしれないとも全然思っていなかった。私はいつも120%ポジティブなので、たぶん、死んでから慌てるんでしょう。
【後編を読む】意識不明の私が見た「悪夢」と旦那の「看病日記」