ここから丸3日以上、私の記憶は一切ないので、旦那の日記に頼ることにします。(全10回の10回目/#1#2#3#4#5#6#7#8#9より続く)

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丸3日間、昏々と眠り続けた

《12月5日(土) 昨晩の手術は、開頭手術ではなく、コイル塞栓術で行われた。プラチナの細い線を患部に押し込んで止血するというもの。大腿部から心臓を経由して脳まで届かせるというから凄い。とりあえず手術は無事に終わったが、今朝病院に行くと、脳梗塞が手術箇所とは別のところで広がっているとのこと。不安。寝たきりだの痴呆だの死亡だのという言葉が頭に浮かぶ。子供たちにはとても説明できず。必死にもちこたえる。》

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清水ちなみさん ©佐藤亘/文藝春秋

《12月6日(日) 朝、大学病院のICU(集中治療室)を訪ねる。脳を休めるために、鎮静剤を使ってしばらく眠らせておくそうだ。すべてをシャットアウトして仕事をする。》

《12月7日(月) さらに強い薬を投与することを承認する書類にサイン。絶望的な気分。》

 丸3日間、昏々と眠り続けた私はずっと夢を見ていました。イヤな夢ばかりだったので覚えているのです。

「これが墓場なのかもしれない」

 最初の夢で、私は私立高校の教員でした(父が教師だったので、そういう夢を見たのかもしれません)。宝塚のように規律が厳しく、階段の上り方下り方にも決まりがあり、先生や先輩とすれ違う時には深々と頭を下げなくてはなりません。私は何の取り柄もない平凡な教員でしたが、ある日、理事長に呼ばれていきなり、「お前はクビだ!」と宣告されました。次の瞬間、何人もの教員が次々に私に飛び掛かり、羽交い締めにされた私は、水を浴びせられて失神してしまいました。

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 次の夢の舞台は白い部屋。患者の私は白いベッドで寝かされています。看護師さんが一人いて、たまにお医者さんもやってきます。寝ているだけなのでラクチンだと思っていたのですが、注射をされたり、口を開けさせられたりと、治療なのかいじめなのかわからないことを散々されました。

 最後に、地下の部屋で、看護師さんから「この注射が終われば退院できます」と言われました。「良かった、これで終わりだ!」と晴れ晴れとした気持ちになりましたが、看護師さんの注射が全然終わりません。ずーっと注射をしているうちに、なんと私が膨らんでいることに気がつきました。